はじめに
音声、映像と本が一体となって、物語ってくれます。
耳と目を使って謎を解かねばなりません。
YouTubeチャンネルが無くなれば、この小説は成り立ちません。
果たして、この小説の賞味期限はいつまでなのか。
あらすじ
きこえる
東京でライブハウスを経営する関ケ原良美は、半年前に同居していた恋人と別れて、自律神経をやられて通院していた。
関ケ原良美は気晴らしに長野に旅行へ出かけ、そこの小さなライブハウスで田上夕紀乃をスカウトした。
関ケ原良美は田上夕紀乃に自分の夢を託したのだ。
東京のアパートで同居して、東京のライブハウスで夕紀乃は歌い始めた。
ところが、良美と同居しているアパートへ帰る途中の公園で、夕紀乃が絞殺死体で発見された。
ショックを受けた良美は、夕紀乃の声が入ったCDを何度も聴いた。すると、アウトロのところで、夕紀乃の声が聞こえる。「・・・ください」
読者の私は本書のQRコードを読み取り、YouTubeの音源を再生した。
7.7万回再生と表示される。少なくともこれくらいの人には読まれているということだ。
その曲のタイトルは、『朝が来ますように』で、なかなかいい曲だった。
アウトロのところにたしかに、「・・・ください」という音が聞こえた。
ここからネタバレ
警察と夕紀乃の実家からは、遺体面会を拒否された。夕紀乃は親の承諾を得ていなかったらしい。怒っているのだ。荷物を取りに来た夕紀乃の父親に、CDから聞こえる声のことを話し、CDを聞いてもらった。夕紀乃の父には何も聞こえない。彼は悟った。この女の頭にだけ聞こえているのだろうと。良美もそれを自覚しつつあった。
でも、YouTubeの音声は「あれはお父さんじゃない。あの人に殺されました」と、きこえる。
これが良美の幻覚でないとしたら、夕紀乃の霊の声ということになる。
あ、その声YouTubeで聴いてしまったよ~💦
にんげん玉
男は、60代後半か。「65歳からの必勝資産運用セミナー」に応募した。
セミナー会場には、ジジイとババアしかいない。当然だが。
途中で詐欺だと気づいたが、もう遅い。うまく抜け出すための手立てを考えていると、講師の顔に見覚えがあることに気づいた。それは25年前の殺人事件の犯人が逃走するところを目撃したのだが、面倒が御免で警察には話していない。その犯人こそが、講師の男だった。
男は、詐欺に合うどころか、逆に講師を脅して金をせしめようと考えた。
男の脅しは成功した。無事に百万円を手に入れた喜びも束の間。刑事がやってきた。
ここからネタバレ
講師が刺されて亡くなった。
司会をしていた女が講師の愛人だった。その女が警察に証言したのだ。
25年前のことも今回の脅しのことも。すべて女は講師から聞いていたそうだ。
なぜ、男は講師を刺したのか?逆じゃないのか。それは脅していたのが講師の方だったから。
25年前に女教師を殺したのが60代の男で、アパートから出てくるのを見ていたのは、当時生徒だった今回の講師だということだ。「元教師が元教え子をねぇ・・・」となる。
セミ
僕は、小学四年生の富岡で、三か月以上前に引っ越してきた。母は家を出て行き、父は亡くなって、祖父母と暮らしている。
友達は、セミ(?)・カミムー(上村)・シモムー(下村)・ツル(鶴谷)の4人だ。
僕は、セミに父が亡くなったときのことを話した。
その後、セミが家出をした話を聞く。その状況を詳しく聞くと、とんでもないことが分かった。
僕の父さんは、セミの家出がきっかけで事故にあって死んだことが分かった。
僕はもうセミに会うつもりが亡くなった。セミが自宅を訪ねてきても、長い間会わないことが続いた。ある日、セミがあまりにもしつこく呼び鈴を鳴らし続けたので、玄関に出て行き、おまえのせいで父さんが死んだとか、おまえなんか死んでしまえとか、言ってはいけないことを言ってしまった。
そのせいで、とんでもないことになる。
ここからネタバレ
音声を聴くと、セミが富岡の両親の会話したテープを聴いているシーンである。話してる内容は不明瞭で聞き取りにくい。セミは自分がいらない子だと聞き間違え、富岡の父の病気の話を富岡のことだと勘違いしたかも知れない。
セミと孫の関係に亀裂が入ったことは知らない祖父は、孫が元気がないのは心の病だと判断し、近くの診療内科を受診さようと車を走らせた。
すると、セミの両親が乗った車とすれ違う。何かあったのかと聞けば、セミが「遺書」を残して行方不明になっているらしい。そして二手に分かれてセミを探すことになる。
しばらくすると、自分が乗った車の前にセミが飛び出してきた。セミは車に乗り込むと、早く富岡を病院へ連れていけと懇願するが、富岡の祖父はセミの無事をご両親に伝えるのが先だと譲らない。
セミは家に連れ戻されたくないようだ。でも連絡を受けたセミの両親がこちらの車に近づいてきた。
セミと僕は嗚咽が止まらない。
富岡はもう父の事故死の原因追及よりも、自分たちの未来に思いが至った。
ミレニアム馬鹿なセミの優しさと不憫さに少し落ち込む・・・。
ハリガネムシ
親の期待通りに学生生活では優秀な成績を収めたものの、就職がうまくいかなかった。
だが、塾の講師としてそれなりに成果が出て、自分に自信も出てきたため、就職という言葉も忘れていた。
そんなとき、塾生の女性に興味を持ち、彼女に盗聴器を仕込んだUSBアダプタをプレゼントする。それから彼は毎日その熟生の家の近くに車を停めて、彼女の日常を盗聴するようになった。
だんだんと、彼女の家庭事情が見えてきた。再婚した母の男と馴染めない彼女の姿が見えてきた。
ここからネタバレ
男は授業で寄生虫の話をした。しっかり勉強して、そんな人間にはなるな、と。
だが、それは塾生の女性には逆効果だった。酔った再婚相手の父に、寄生虫という暴言を吐いてしまい、逆上した男にそのまま手籠めにされてしまった。それでも彼女は塾に来る。
講師の男は警察に言いたくても言えない。盗聴がバレるから。
自分も塾の講師としては、ドラマのキャラクターを真似て、それに寄生して生きてきたのだった。
しばらくして、彼女の母の再婚相手の死体が海で見つかった。事故死で処理され保険金が下りて娘は大学へ行けるようになった。
何もできなかった男は、塾の講師を辞めて、就職活動を始めた。
ほんとうに何もできなかったのか。彼女が「助けて」と言ったのは盗聴器の先にいた講師に向かってだったような気もするが、何も無かったかのように終わる。
こんなエンディングでいいのか、と考えさせられてしまう。
死者の耳
章の初めに印刷してあるQRコードを読み取って、YouTubeの音声を聴く。すでに3万回視聴されている。多くの読者が「きいている」ようだ。
瀧沢怜那が、自宅に入る。美歩とのスマホを繋いだままで。
ところが、主人の瀧沢鍾一が死んでいるのを発見したので、警察に電話すると言う。
美歩が怜那に言う。
「待って。警察に電話したら、また私に電話して。」
「飯田さんのことで瀧沢さんが死んだ あなたが飯田さんと・・・」と責めると、怜那は電話を切った。
桂木美歩は、怜那が電話してこないので現場に行き、警察に事情聴取される。
桂木美歩は36歳、事情聴取している女性警官は40歳。
ここからネタバレ
怜那が美歩に録音を依頼したのは、夫のDVの証拠を掴むためだったという。
そんな夫が自殺などするだろうか?真犯人は怜那、不倫相手の男、美歩の誰かしかいない。と読者は考える。
怜那が電話してこなかった(これなかった)のは、美歩との電話を切ったあと、ベランダから飛び降りて自殺したためだった。先にこちらの事件で警察が来て、美歩が様子を見に来てびっくりして泣いているので、警察に事情聴取されて部屋に入ってから警察も瀧沢鍾一が死んでいるところを発見したのである。
警察の美浜刑事の事情聴取で、怜那に滝沢鍾一を紹介したのは美歩だったと分かった。その後二人が結婚するときいて驚いたらしい。この辺が怪しいと思いませんか・・・
美歩が鍾一と怜那の関係を壊すために、怜那に不倫を仕掛けたが、鍾一の方が自殺してしまったので、急遽怜那を罵倒し、飯田からも電話させるなどして怜那を追い込んだのではないか、と読者の私は推理した。
さて、この難解なトリックの謎解きを期待していたが、結局そうはならなかった。
これが現実に近い終わり方だとしたら、日本警察の捜査能力に失望してしまうな、と思った。人手不足を理由に本件はともに自殺で片付いた。笑っているのが、怜那の不倫相手の男か友人の美歩だったらと思うと、相当くやしいのだが・・・。これでいいのか。
ところがである。最後のYoutubeは音声と映像だった。死んでいるはずの怜那の夫が起き上がった。おそらくガスボンベを取りに行った怜那を追いかけてベランダへ。ということは、夫は飯田と怜那が電話でした殺害計画を聞いていたことになる。したがって、怜那は夫がベランダから突き落とした。夫は妻の後を追い自殺した。この映像が無ければ真相にはたどり着けない。
結果として、飯田は確かに無罪。美歩の逆恨みの線も亡くなった。
おわりに
YouTubeを見るのと見ないのとでは、結論が違ってしまうこともある。
このように、読者に結果を委ねるような試みは、「N」でもなされていた。
読書が、本だけで閉じない面白い世界を見せてくれたと言えるでしょう。
ただ、もう少し謎解きとハッピーエンドの要素があればいいと思う。
書籍情報
・形式 単行本(ソフトカバー)
・出版社 株式会社講談社
・ページ数 272頁
・著者 道尾秀介
・初版発行 2023年11月20日
・分類 現代日本文学、ミステリー、サスペンス
〆
