『自分以外全員他人 西村亨』あらすじ・感想

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第39回太宰治賞受賞作

コロナ禍で自分の好きなことができずイライラしていた中年男の柳田譲は、ロードバイクでマッサージ店に通勤するようになってから症状は改善したようだ。うつ病には運動がいいらしい。

ただ、自転車で道路を走るとき、基本歩道ではなく車道を走らなければならないが、路駐の車はあるし、歩道は人が横に広がって歩いていて、ほんとうに走りにくいので余計にイライラする。

読者のわたしも学生のころは、ポタリングにハマりそうになったことがあった。
何かを求めていたのかも知れない。

柳田譲は、人生に希望もなく、このままでは発狂して犯罪を犯しそうだから、食を断って家族に迷惑をかける前に死ぬことが願望となっていた。

とはいえ、契約から3年以内に自殺すると保険金が支払われない生命保険に入っているので、まだ死ねないらしい。
そんな保険があるとは知らなかった。読書は勉強になる。

正月に、譲の母の家に家族が集まった。

譲が言う

行きたいところもないし、分かり合えるような人もいないし

母が言う

そんなの当たり前だがね。みんな他人なんだから

でたー この本のタイトル!

譲は、自分が客に対して、どんどん嫌な奴になっていくことを自覚して、自己嫌悪に陥っていく。
でも、どうしようもない。

そんなとき、心の支えでもあったオーナーの押尾さんが、家族の都合で突然辞めることになった。
いままで譲が辞めようとしたら引き留めてくれたので続けてこられたが、新しいオーナーは引き留めないだろう。そうなれば、生活費が稼げなくなって食事が満足にできなくなり、理想とする餓死へのカウントダウンが開始される。

譲は動物に迷惑を掛けたくないから食べない。植物にも意識があるかも知れないから食べない。
これを不食というらしい。水だけで生きる。それで餓死するならそれを受け入れるそうだ。

ようやく、思い通りに死んで行けると思った譲は、それでも住んでるマンションの駐輪場の件でイライラが募っていった。
ルール違反ではないが、自分がいつも停めていた場所に、新参者の自転車が停まっている。
何回もその自転車をどけて自分の自転車を置いた。

新参者は、ついに正式に契約して駐輪シールを貼り、自分のすきなところへ停める権利を得た。
そうすると、今まで仲間だと思っていたほかの利用者が、自分の大事な自転車を枠外のスペースへ追いやった。
その裏切り?に怒りが爆発する。

このような心情になる人がいることを、まだ被害に会っていない我々読者も知っておくべきだろう。
自分の身は自分で守るしかない。

あと少しで、幸せな死を迎え、家族には保険金も降りる条件をクリアできたのに・・・

譲が入っている保険は、犯罪者になったら支払われないかも知れない。

「人生、一寸先は闇」「アンガーマネジメント」という言葉を思い出した。

著者情報

西村 亨(にしむら・りょう):1977年鹿児島県生まれ。東京都在住。鹿児島県立鹿児島水産高等学校卒業。2023年、「自分以外全員他人」で第39回太宰治賞受賞。同年、南日本文化賞奨励賞を受賞。2024年、『孤独への道は愛で敷き詰められている』が「本の雑誌年間ベストテン」の第3位に選ばれる。(筑摩書房 著作者プロフィールから引用)

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