はじめに
全六章。読む順番で、世界が変わる。
あなた自身がつくる720通りの物語。
すべての始まりは何だったのか。
結末はいったいどこにあるのか。
「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。
「死んでくれない?」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。
定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。
殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。
ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。
殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。
道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える。 /集英社オフィシャルサイトの紹介から引用させていただきました。
こんなにも、いろんな人の人生は交錯しているのかと感じることでしょう。
まだお読みでない方は、ネタバレ部分を読み飛ばすといいでしょう。
あらすじ
名の無い毒液と花
理科の中学の教師だった吉岡利香。
探偵だった夫が、車に跳ねられて障害者となってから、13年が経過していた。
そうなった発端は、生徒である飯沼知真(かずま)の母が、バイクに乗った二人の少年に跳ねられて亡くなり、知真が不良グループと付き合うようになったことである。
ここからネタバレ
知真(かずま)という名前は、母によってソクラテスの「無知の知」から命名された。
無知の知とは、自分が何も知らないということを自覚しない限り真の知は得られない、というようなこと。
妻の吉岡利香の故郷で、夫の吉岡精一と友人の江添正見が、「ペット探偵業」を起業した。
利香は、故郷で中学校の理科教師になった。
ペット探偵の初仕事が舞い込んだ。依頼者の主婦のペットの犬種は、ブラッドハウンドで、名前はルーク。海岸からちょっと離れたところにある無人島で犬を見かけたと言う情報があった。鼻のきく江添は無人島に行き、たちどころにルークを発見して飼い主に連絡する、
だが、その金持ち夫婦は、別件で揉め出した。なんと、ルークと言うのは、婦人の浮気相手の名前だと、夫が妻の携帯を見てバレたらしい。吉岡は、揉める夫妻から、ルークを引き取った。
知真(かずま)は、母の事故死で心を閉ざしてしまい、担任も困っていた。
吉岡利香は、生物部の顧問であったことから、知真の担任から、生物部員だった知真に話しかけてみてほしいと頼まれてしまった。
知真は、不良グループの中に母をバイクで轢いた奴がいることを知り、復讐を計画する。無人島で知真を見かけた吉岡利香は、理科室で草木染めで使う圧搾機が濡れていることに気付き、知真が無人島に生息している毒ニンジンを取りに行ったのではないかと気付いた。
そして、知真の復讐計画を止めるため、吉岡精一と吉岡利香の夫婦は、引き取ったルークを使って知真を探す。街の廃工場で、不良と知真を発見する。吉岡利香は、知真が不良らを殺害しようとしていると思いこんでいたが、知真の母のソクラテスの話を思い出す。ソクラテスは、死刑となるとき、毒ニンジンを飲んで自害したのだった。利香は知真が自殺するつもりだと気付いて、知真が持っていた水筒を奪った。駆けつけた警察を見て不良らは逃げたため、知真の計画は阻止された。彼は不良らの前で自害することで、彼らを一生苦しめてやろうと考えていたのだ。
そのあと、現場から戻る途中で、迎えに来た江添を見つけて、走りだした犬のルークを追いかけて精一は大通りに飛び出した。精一は車に轢かれて即死した。それから、13年、障害が残ったルークと、江添はペット探偵の仕事を続けている。不定期に吉岡利香の口座に、いまもお金が振り込まれてくる。
落ちない魔球と鳥
とある漁村の野球兄弟の話。主人公は弟の小湊普哉。兄の小湊英雄も弟の普哉もピッチャーだった。兄はあと一歩で甲子園というところまで行ったが、弟は補欠だった。毎日、漁港の近くの秘密のエリアでフォークの練習をしていた。すると常連の釣り人のニシキモさんと灰色の鳥に出会った。オウムのようなその鳥は「死んでくれない?」と喋る。普哉はその鳥がどこで飼われているのか気になって、ボートでニシキモさんと追いかけることになった。
到着したのは、大きなお屋敷で、その鳥について飼い主の高校三年生のチナミ(永海千奈海)に会う。鳥の名前は、リクちゃん。翌日の日曜日に、チナミちゃんはペット探偵の事務所を訪ねて、ヨウム(大型のインコ)の捜査をキャンセルした。普哉は、チナミが鳥のリクちゃんのことを良く思っていないと予想(なぜなら、リクに向かって「死んでくれない?」と話しているから)して、チナミからリクを預かることを提案し了承された。そのことを、ニシキモさんにも話した。
ここからネタバレ
それ以来、小湊普哉は鳥のリクのことをネタにして、チナミに会うようになっていた。そして、死のうとしていたのはチナミだという結論にたどり着いて、そのわけをチナミに聞いた。チナミが中学一年のときに父が病死して母は歯科医の男と再婚した。お金持ちになって医学部を受験する野望を抱くようになり、今の高校に入ったものの、まわりの人が頭良すぎて着いていけないから死にたいと言ったらしい。
チナミは小湊普哉が家に鳥のリクと共に現れたとき、普哉が誰だか分かったという。そのわけは小湊普哉の兄のSNSに小湊普哉もたまに登場していたから。チナミは小湊英雄のSNSを前から読んでいたらしい。小湊普哉は兄のSNSを見た。そこに書かれていた兄へのひどい書込みを。あと一歩で甲子園。先生の指示を破って練習し、肘を壊して決勝に出られなかった兄。そのせいで負けたのだから死んでくれ、と書いてあった。小湊普哉はSNSを使って犯人を挑発した。想定どおり犯人は小湊普哉の前に現れ、SNSを辞めるよう脅されかけたが、通りかかった中学時代の先生に救われる。
二人がお互いの傷をなめ合って最高潮に達したとき、ニシキモさんは小湊普哉とチナミ(千奈海)をボートに乗せて海へ出た。雲の間から光が漏れて、天使の階段が見えた。そして五つの光が広がっていき、花が咲いたようになった。
眠らない刑事と犬
この町で五十年ぶりに殺人事件発生。一匹の犬が殺人現場から逃走した。40代女性の小野田刑事は、その犬を探す。
殺されたのは夫婦。犯人は隣人の男。女刑事小野田がマークしていたのは、「ペット探偵・江添&吉岡」の江添正見である。そして小野田刑事は、江添らが不正に捜査料を吊り上げていることを見逃すかわりに、殺人現場から逃げた犬の捜査を依頼した。
ペットの発見率90%を超える実績を信じて、江添に殺人現場から逃げた犬の捜査を依頼したが、江添らに不正をされるのが嫌で捜査に付いて行く。そうするうちに打ち解けて、江添がなぜペット探偵になったのかを聞いた。江添は6歳のころ、母子家庭だったが、お金と男にだらしない母にお金を盗んだと疑われ、家出したらしい。犯人はおそらくニシキモさん。江添は潜伏先で動物たちと仲良くなり、警察に発見されるまでの約一か月の間に動物の行動・考えが分かるようになった。
その話を聞いた吉岡がペット探偵を始めることを提案してきたのだった。
ところが吉岡は事故で障害を負い、彼の代わりに仕事上の行きがかりで飼うことになった犬のブラッドハウンドに吉岡と命名してペットの捜索に駆り出していた。
今回はひとりでの捜査が難航したので、その吉岡(犬のブラッドハウンド)の登場となった。
ようやく逃げた犬を見つけるが、すでに息を引き取っていた。犯人に切られた傷が致命傷となったようだ。江添は女刑事に言った「隣人の男は息子は犯人じゃないよ」
小野田刑事に同僚の刑事から連絡が入った。犯人を逮捕した。
ここからネタバレ
被害者の隣人の男とは、小野田刑事の息子だった。
刑事の母は、状況証拠から息子が犯人ではないかと疑っていた。刑事の母は仕事が忙しく、息子のことはほとんど分かっていなかった。それで捜査ができるのかとさえ思われるが。
同僚が逮捕したのは、自分の息子ではなく、隣人夫婦の息子だった。その息子は心を病んでいて、ペットの犬に深夜の暴行を続けていたのだった。それを見た隣人の小野田刑事の息子は、隣人夫婦にクレームをつけるふりをして、深夜の息子の異常行動を警告したのだった。また包丁を持って隣人宅庭に侵入したのは、暴行されている犬を逃がそうと考えたからであった。
家に帰った小野田は、息子を信じられなかったことを詫びたが、息子が負った心の傷は、ペット探偵の江添が話してくれた過去に負った心の傷と同じだと気づいた。
消えない硝子の星
アイルランドのダブリンにて、ホリーは死を迎えつつあった。娘の名はオリアナ。
日本人の看護師の飯沼知真は、ホリーの終末期医療に従事することになった。
ホリーの姉のステラは妹のケアには迷惑そうな態度だったという。
セイヨウヒイラギに集まるルリシジミは、Holly Blue(ホリー ブルー)という。自分の名前(ホリー)が入った蝶のことを教えてくれたのは日本人の研究者、チエさんだと言う。
アイルランドは、ハローウィンの発祥の地。オリアナはママが悪魔に連れて行かれないように仮装する。死者の魂が、妖精やゴブリンの姿をしてやってくるので、機嫌を損ねないようにお菓子を配るのだとか。
そして、ホリーの姉のステラはホリーとの約束を破り、オリアナに母の病気は治らないと告げてしまう。それを知らないホリーは娘が笑わなくなったことに落ち込んでいて、理由を知る看護師の飯沼知真はどうしたらいいか悩んだ。
終末期医療の精神をステラに説いたが、「死んでいく人間が偉いのか」、という悪魔のようなつぶやきを聞いて愕然とし、怒りの感情さえ感じたし、「カズマの英語は聞き取れないよ」とまで言われた。
ここからネタバレ
カズマが英語を習ったのは、中学校時代の新間先生だった。当時40代半ば。英語は全く話せなかった。
ステラは、幸運のお守りの思い出を語る。それはシーグラスのことだった。それさえ無くならなければ、こんなことにはならなかった、と言う。
飯沼知真(以下カズマ)は、ウラン硝子を見つけてオリアナの願いを叶えたかった。
カズマはオリアナと海岸へ。ステラも実は同じ思いだ。
徹夜して海岸を彷徨う。日の出の光でウランが光る。ついにオリアナはウラン硝子を見つけ、ステラもウラン硝子を発見する。
やがてホリーは死を迎えた。日本に戻るカズマに「ママのこと忘れないで」と言ったオリアナの言葉が耳に残る。
飛べない雄蜂の嘘
小学四年生の女の子。自宅に帰る途中の坂道で、オスのルリシジミに気を取られた。
坂道を転げ落ち、落ちていた割れた一升瓶で大けがをした。助けてくれた少年の言葉が耳に痛い。「お酒って、なければいいのに」この少年も何かを背負っていそうだ。
場面は変わる
田坂という男が酒乱となり、妻に強烈な暴力をふるっていた。酔って包丁を振り上げた田坂。
妻が死を覚悟したそのとき、細身の男が田坂を後ろから羽交い絞めにした。妻は落ちた包丁を拾って、迷わず田坂の胸を突いた。
細身の男は、田坂の妻に嘘を言う。田坂を殺しに来たのでちょうど良かった、と。
田坂を海に捨てるボートの上で、細身の男はニシキモ(錦茂)と名乗った。
ここからネタバレ
そして、ふたりの奇妙な共同生活が始まった。錦茂は昼間その女の家でひっそりと過ごし、女は勤めに出て帰ってくる。いつの間にか男女となった。いっしょに暮らすうちに、身の上話になる。錦茂は子供のころ、酒乱の父に目の前で母を殺された。父が捕まるとひとり親戚で育つも、盗みを働くようになり、たまたま盗みに入った家で、田坂に殺されそうな女を助けた。昔助けた女をまた救った、と気づいていたかどうか。
警察が来た。ニシキモの写真を見せて、この男を知らないか、と聞く。知らないと答えると警察は帰って行った。そして、ニシキモは女の家を出ると、巡回していた警察に捕まった。自分の母が言っていた天使の梯子を見るために海へ出たニシキモは、海上で逮捕された。
あれから三十年。ニシキモはどうしているだろうかと。
女は、虫の研究をしている。チエさん。
笑わない少女の死
定年になった男。元中学校の英語教師、つまり新間先生だ。二年前に妻を病気で亡くした。そして、今はアイルランドに小旅行。
小遣い稼ぎの少女と出会い、アイスクリームを食べながら、お店の中で少女の身の上話を聞いた。両親は亡くなり、叔母さんと住んでいる。お金が必要だから観光客狙いで小銭を所望する活動を行っているらしい。話し込んでいたところに叔母が現れたので、少女は店から出て行った。
ここからネタバレ
少女は、ある蝶を母の生まれ変わりだと考えて、大切に持ち歩いていた。
I saw a Holly Blue (horribleではない)
I put it in a box
定年になった男が最後にその少女に再会した日、少女の大切なものが入っている箱の蓋をあけてしまった。
気づかれないように蓋を戻した。家に帰った少女は、大切な蝶が無いことに気づいた。取り乱して家から道路に飛び出して車に轢かれて亡くなった。さようならオリアナ。
おわりに
いかがでしたでしょうか。
読後感としては、すっきりしない感じですかね。それは錦茂さんが言うように「悪いことが起きねえ人生のほうが特別なんだろうけどな」ということではないかと感じています。これからも人生にはいろいろあると思いますが、過ぎてしまえば、どうでもいいことで悩んでいたと思えるようになる気がしてきました。
書籍情報
・形式 単行本(ハードカバー)
・出版社 株式会社集英社
・ページ数 368頁
・著者 道尾秀介
・初版発行 2021年10月10日
・分類 現代日本文学、ミステリー、サスペンス
〆

