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『名探偵のままでいて』 小西マサテル あらすじ 感想

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目次

はじめに

この作品は第21回「このミステリーがすごい!」大賞を受賞し、2023年1月に宝島社から刊行されました。

あらすじ 感想

第一章 紺色の脳細胞

祖父の家には、東横線で行く。
ほんの半年前、祖父の様子がおかしくなり始めた。
そして、祖父は『レビー小体型認知症』と診断された。

認知症にはいくつかあるらしい。
・アルツハイマー型 70%
・血管性 20%
・レビー小体型 10%

祖父はめずらしい型の認知症らしい。
その特徴は「幻視」である。手が震えるパーキンソン症状も出る。

孫の楓は小さい頃から祖父にミステリーの薫陶を受けて、ミステリーマニアになった。
そして、文芸評論家の瀬戸川猛氏の評論集まで読んでいる。
その彼の出身母体である「ワセダミステリクラブ」の主要メンバーに楓の祖父がいたのである。
楓は、瀬戸川猛氏の評論集を中古専門のネット書店で買い求めた。

届いた全集をパラパラめくると、著者の瀬戸川猛氏の訃報記事の切り抜きが挟んであった。
楓はこの謎を解いてもらうために、目黒区の碑文谷にある寂れかけた祖父の家に足を運んだ。

そして、祖父が自分で「レビー小体型認知症」であることを認識していることを確かめた。
オレンジ色のレビー小体が脳の表面に広がっているので、自らを“緋色の脳細胞”と、エルキュール・ポワロの向こうを張った。

訃報記事の謎は、“緋色の脳細胞”がさらりと解く。

ゴロワーズなる煙草を吸いはじめると、名推理が始まり、煙草の火が消えるころ、祖父は恍惚の人へと戻るのである。

第二章 居酒屋の“密室”

祖父は、傑出した知性と蓄積された知識によって、論理的に導かれる結論に基づく幻覚を自覚的に見ることができるのかも知れない。

祖父は校長であるとき、“窓ふき先生” と呼ばれていた。

小学校の卒業式で、生徒に本などを渡す祖父が、楓に渡した本は、ロバート・F・ヤングの『たんぽぽ娘』を表題作とする短編集だった。
それは、たんぽぽ色の髪の毛の少女の時空を超えた切ない恋愛を描く、ハートフルな古典SF小説だ。

そんなことを思い出しているとき、声を掛けてきたのが、同期の男性教師の岩田である。
骨太の体躯に似合わず料理とスイーツ作りが趣味であるが、酒は弱い。
楓は彼の好意に気づいていたが、本好きの楓は恋愛が苦手だった。

いつも暗めな服装だと同級生から指摘されていたが、その理由の“あの出来事”は、終章で明らかになる。

そして、岩田が通い、楓も知っている割烹居酒屋『はる乃』であった殺人事件について語りだした。
その続きは、たまたま現場に居合わせた高校野球部時代の後輩とこれから吞みながら話すので、楓にも同席しろと言う。

イタリアン・バールで待っていたその後輩は、岩田の話ではそうとうな変人らしい。
髪はワンレンで性別が分からないほど。そして約束の時間まで読んでいる本から目を離さなかった。
指は細く長く、鼻は高かった。下の名前が四季と言った。

岩田が集合に遅れる中、年下のやや失礼な四季に赤面する楓。
やはり恋愛は苦手なようであるが、楓は相当な美人である。

そのやり取りの中で楓が読んでいる古典ミステリの翻訳について、四季が言うことは、私も同感です。
とくに、「登場人物の名前が覚えにくくて、まるであたまに入ってこない」

だから、四季は日本人作家しか読まないという。海外ミステリ好きの楓とは合わないのか・・・。
彼、四季は今は劇団員だという。同じ野球部だというのに進路がこれほど違うとは。

と、まあここでは、登場人物の人となりが紹介されたので、ようやく事件の話となった。



四季も同席した『はる乃』の殺人事件に四季の友人が巻き込まれているという。
四季が語りだす話を、楓が了解を取ってから録音をする。あとで名探偵の祖父に聞かせるためだ。

友人がトイレから戻ってきて、入れ替わりに四季がトイレへ行くと、鍵の掛かった男子トイレで、スキンヘッドでタトゥーを入れた男が背中にナイフがささった状態で発見された、という。
警察が来て、当然直前にトイレに行った友人が「黙秘します」と言ったために、警察に連行されたのだ。

舞台は祖父の家に変わる。ここでは認知症のリハビリに取り組む祖父の姿も描かれる。

認知症の父を持つ読者の私もそこはじっくり読む。

そして、楓の祖父は、この居酒屋の密室の謎を一本の煙草を吸いながら解く。

第三章 プールの“人間消失”

今回は、岩田と四季の関係、野球部でのバッテリーだったこと、なぜ四季が野球をやめたのか、なぜこの日はめずらしく二日酔いになっていたのかが岩田の口から語られる。こうして少しずつ登場人物の人生や性格がつまびらかにされていく。そして謎のお話がスタートする、という流れ

さて、その謎のお話はというと、楓は大学時代の同級生の美咲とランチ。

そして美咲は、小学校で起きた「人間消失もの」ミステリーについて話だした。

去年の春、新卒の美人先生が赴任してきた。マドンナ先生。

夏休み前のプールの時間。

終業のチャイムとともに、プールから上がった子供たち。うしろで先生が飛び込む水音がした。
だが、時間が経っても先生が上がってこない。あせった生徒たちはプールに飛び込んで探したが、先生の姿はなく、それきり先生は行方不明となってしまった。

ところが、家族も学校も警察に捜索願を出していないという。

不登校になるのは生徒だけではない、と分かっているが、楓は考え込んでしまった。

楓は、祖父の体調がいい日に、祖父宅を訪問した。
家には理学療法士がいて、運動機能の回復サポートをしていた。
三十代前半で筋肉隆々の男だった。
その風貌は、元大リーガーのイチローに似ていた。

そして、美咲から聞いた“マドンナ先生が消えた”話をする。

今回の謎は、祖父も関わっていたという面白い物語となっている。

第四章 33人いる!

楓が持ってきた謎は、「ホラーのようで、ファンタジーのようで、ミステリーめいた話」らしい。

祖父に話した内容は、

英語の時間の最初の20分、みんなで“こわいもの話大会”をした。大いに恐怖心が高まったところで時間切れ。

英語の授業では、二人か三人でペアになり英会話する。日本語禁止。

二人の子らが、日本語話しただろと、もめだして、こわいもの話大会で出た、この学校にあった防空壕で泣いていた女の子が出たと言って騒然となった。

祖父はこともなげに、謎を解いてしまった。

第五章 まぼろしの女

楓の小学校では、三週間後にマラソン大会が開かれるので、楓先生は岩田の号令で訓練を実施していた。

岩田はこのルートの常連らしく、すれ違ういろんな人から声を掛けられる。

楓はこのとき、ひと月前から誰かにつけられている気がすると、二人に告白する。
橋の上のあやしい人物を岩田が追いかけたが、足が速くてにげられた。

そして、問題の事件が起こった。

その日は、岩田は一人でその河川敷の遊歩道を走っていた。
先週あったパーカーの女性とすれ違った。
喧嘩の声に気づいて、走り寄る岩田。

駆けつけた岩田が、若者を助けようとしてナイフに手を掛けたところへ、警官が到着する。間が良すぎる。

岩田は、殺人未遂の現行犯で逮捕されるという、いい人が冤罪で逮捕されるという危機に陥ったのである。

ここで得られる教訓は何か。岩田先生のように被害者に寄り添った者が負けなのか。
日本の司法のおかしな点がテレビで放映されていた。
19歳で逮捕され刑期を終えたあとの再審でようやく無罪が告げられたのは60歳だという。
こんな馬鹿げた話があるだろうか。

面会で聞き出した「ウォーキングの女王」なる女性は、事件の一部始終を目撃し、岩田が被害者を救護する場面まで見ていたはずだが、証言は得られず。
しかも、ウォーキング常連の誰もが「ウォーキングの女王」を見ていないという。

もう、祖父を頼るしかない。

祖父の家では、ソフトクリーム屋さんと呼ばれる男が祖父の散髪をしていて、おかっぱのヘルパーさんが介護ノートを付けていた。ソフトクリーム屋さんが帰るときの目に敵意があるのを楓は見たような気がした。

祖父は、この難題も見事に物語にしてみせる。



事件が終わって、楓と四季は飲んでいた。
四季は楓に少し遅い誕生プレゼントを渡すと、楓は衝撃的な自身の身の上話を話す。

祖父が生きていると思っている楓の母、香苗はもう死んでいない
結婚式のときにストーカーの男に刺されて死亡し、楓は無事生まれたという。母を刺した犯人は捕まっていない。
父は中学生の時にがんで他界した。祖父が居なくなれば、楓は天涯孤独となる。
この事件のことを亡くなった父から聞いた楓は、男の人が怖くなり、ウェディングドレスのような白い服が着られなくなった。

祖父は母のときも、父の時も、お百度参りをしていた。母のときのことはあとから父に聞いた。
父のときのことは、たまたま楓が祖父がお百度参りをするところを見てしまった。
お百度参りは「陰徳」を積むことに意味があるが、二回とも見られてしまったことになる。
その日の夜、父は他界した。

身の上話をしてくれた楓に、四季は告白した。

終章   ストーカーの謎

ミステリー談義の中で、結末を読者の想像に委ねるというスタイル(ジャンル)もあるという話になって、今回はソレかなと思った。

ストーカーの男は電話を掛けてきた。

「無視してたら殺すよ。準備はすべて整ったんで、もう安心してください。今日はその報告です」
電話はそこで切れた。

楓は祖父の家へ行き、看護師さんや親ばかさんと話をして、弘明寺の自宅マンションに戻る。
自分の部屋のノブに「黒いバラのブーケ」がぶらさがっていた。まるでウェディングドレスのようにも見える。
怖くて友人の美咲の家に泊めてもらい、翌朝祖父の家に向かった。

祖父の家の玄関の扉に手を掛けたとき、楓は後ろから口元を柔らかい布で塞がれた。
しばらくして、首筋に注射器が刺さった。



気が付くと、祖父が発音練習をしていた。
楓は全身グルグル巻きにされている。

楓は居間に転がされ、祖父は隣の書斎で、言語聴覚士の親ばかさんと話しているようだ。

このあとの顛末は手に汗を握ることでしょう。

事件後、楓は祖父と話している。

相談事があるらしい。

「わたしね 初めて好きなひとができちゃったかもしれないんだ」
「それは大変な難事件じゃないか」

そして、祖父が推理モードに入る台詞を言った。

「楓。煙草を一本くれないか」

物語はここで終わる。このあと祖父は楓が好きになった人を言い当てていることだろう。
リドル・ストーリー(謎物語)ってやつか。読者の想像にまかせるやつ。 続きが気になる。


文章、登場シーンを思い起こす限り、四季君かと思うも、岩田も好感の持てるキャラである。

続編を読むしかない!

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書籍情報

・形式 単行本(ソフトカバー)
・出版社 株式会社宝島社
・ページ数 352頁
・著者 小西マサテル
・初版発行 2023年1月21日
・分類 文芸作品 ミステリー

著者情報

1965年生まれ。香川県高松市出身。東京都在住。明治大学在学中より放送作家として活躍。
2022年現在、ラジオ番組『ナインティナインのオールナイトニッポン』『徳光和夫 とくモリ!歌謡サタデー』『笑福亭鶴光のオールナイトニッポン.TV@J:COM』『明石家さんま オールニッポン お願い!リクエスト』や単独ライブ『南原清隆のつれづれ発表会』などのメイン構成を担当。
趣味・特技は落語。
(本書およびネットの情報から)



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