この記事では、伊坂幸太郎さんの小説で2026年4月発表の本屋大賞候補になった『さよならジャバウォック』についてのレビューです。ネタバレ部分は明確に区切っているので、未読の方も安心して読めます。
登場人物
・斗真 45歳 北斎のマネージャ
(かつて北斎をSNSで追い込んで破滅させた)
・伊藤北斎 音楽家 還暦過ぎ かつて失言で
35歳で引退
・伊藤歌子 北斎の娘 30歳 離婚して北斎
と同居
・伊藤美穂乃 北斎の妻(他界)
・佐藤量子 夫殺し
・佐藤何某 量子の夫 量子を殺そうとして
逆に量子に殺された
・佐藤翔 量子の息子 幼稚園児
・桂凍朗(かつらこごろう) 量子の学生時代の
後輩 まじめすぎる
・天狗男 桂凍朗に心酔する子分
身長2メートル
・破魔矢と絵馬 20代夫婦 桂凍朗と同じ施設
出身
・量子と同じマンションに住む燕ちゃん
・大企業ルーシー会長の葉奈子と社長の太瀧
(たろう)夫妻 キャンパスの創設者
ネタバレなしの魅力紹介
作品の基本情報
・著者 伊坂幸太郎
・出版社 双葉社
・ジャンル SFミステリー
・読みやすさ サスペンス的な展開で一気に
読んでしまう・344頁
どんな読者に刺さるか
・SFが好きな人
・最後にちょっと感動したい人
・スリリングな展開が好きな人
魅力ポイント
・世界観は、SFとしか言いようがない
・登場人物グループは少なく物語に集中できる
・哲学的な内容、テーマがある
序盤〜中盤のあらすじ(ネタバレなし)
主人公の状況
佐藤量子(旧姓宮田)さん35歳が主人公。夫36歳、幼稚園の息子の仙台のマンション9階に住む3人家族。母は70歳で山形の実家にいる。夫は結婚して仙台に転勤してから別人のように冷たくなり子育ては全部任されたうえに、言葉の暴力を振るわれて、量子は疲弊していった。加えて、同じ階に住んでいた小学生の女の子のおばあちゃんの介護を手助けしたりしていた。
物語の導入
そんな状況がさらに悪くなる。最近、夫の様子がおかしい。息子も最近お父さんが怖いと言っている。たまたま最近、量子は学生時代のマジックサークルの後輩の桂凍朗と遭遇し、挨拶程度はするようになったのだが、夫がそれを浮気と邪推し、自分の女遊びは棚に上げて、異常なほど興奮して帰宅するや否や量子に殴る蹴るの暴力を振るう。「ぶっ殺してやる」正気を失った夫に、このままでは殺されると感じた量子は、近くにあった金づちを振りかざす。夫は血を流して絶命する。呆然としていると、桂凍朗が家にやってきた。困ってますよね、量子さん!
桂は自分の車で、量子の夫を山奥まで運んだ。自分の山なので絶対にバレません。安心してください。披露困憊の量子は眠ってしまった。そして、量子は目が覚めると、破魔矢と絵馬がいた。
後半の展開(※少々ネタバレあり)
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※ここから先はネタバレを含みます
未読の方はご注意ください
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伊藤北斎(伝説のミュージシャン)の話になる。娘の話にもなった。娘の目の前で人が死んでからおかしくなったという。その娘に憑いたジャバウォックをはがしたのが、ジャバウォックの研究施設で働く破魔矢と絵馬だった。
そのときのジャバウォックの説明がこうだ。「ネコやネズミに寄生して行動に変化をもたらすトキソプラズマという寄生虫のようなもの。恐怖心や不安感を鈍らせるため、危険な行動を取り、交通事故を起こしやすくなる。」そしてさらに一番分かりやすいのがアルコールとのこと。なるほど酔っぱらっている状態と似ていると言われれば納得感がある。アルコールに意志は無いのと同じようにジャバウォックにも意志はないらしい。「ジャバウォックは基本的に、その脳に憑り憑いたら脳が死ぬまで離れない」そうだ。死んだら脳から出て、近くにいた動物に憑り憑く。
場面は量子と破魔矢と絵馬がいる。車に乗っていて、桂凍朗を止めなきゃいけないらしい。何のことか分からない量子。(読者の私も良く分からない)そして話は量子の夫に及ぶ。ジャバウォック研究所はある女性をマークしていたが、深夜に歩道橋から転げ落ちて亡くなった。その場にいた不倫相手の量子の夫はジャバウォックに憑り憑かれた。だから暴れたのか、となんとなく分かっていくが、まだ何か違和感がある。
終盤〜結末の要点まとめ
主要な事件・真相
桂凍朗、破魔矢、絵麻は、そのジャバウォックとかいう得体の知れないものの研究をしている。
物語の転換点
桂凍朗は、ヘルマンリクガメを持ってどこかに向かっていて、破魔矢と絵馬の夫婦は、それを追っている。量子にとっては味方のはずの桂凍朗が追われているし、破魔矢と絵馬が誰なのかもよくわからず信用しきれない量子はときどき逃走し、破魔矢と絵馬の手を煩わせるが、二人はこともなげに量子をピンチから救い出す。この三人の会話も面白いし、量子の思考・混乱も面白い。 伊藤北斎の娘の歌子からジャバウォックをはがすのだが、そのときに伊藤北斎から聞いたプロデューサーの事故と殺人と音楽デモテープの話を聞いて、そのデモテープの音楽がジャバウォックをはがすのに役立つ、つまりジャバウォックの天敵だと気づく。桂凍朗もこれに気づいていたのか。伊藤北斎、歌子、斗真らも物語の終盤へ向かって突き進む。
結末の概要
最終的な関係性
これは言えない。読んでのお楽しみ。
主人公量子の変化
殺人犯ではあるが、ある事実を知って愕然とする。読者だって愕然とするのだ。
物語が示すメッセージ
人間の本能、人間の本性のようなものを描いてみたかったのか、と思った。 よく分からないが、アルコールのたとえがあったので、飲み過ぎには注意しようと思いました。
考察・解釈
テーマの深掘り
純粋なSFミステリーと考えることもできるが、桂凍朗という人間を見ていると何か社会的メッセージがあるとも思う。上でも書いたが、人間の本能や動物との違いが大きなテーマとして描かれていると思う。
伏線の回収
どこで示唆されていたか 量子が絵麻らの車から逃げ出し、高齢の女性の車で自宅近くまで送ってもらったが、「知っているはずなのにどこか違和感のある町、天狗のアクセサリー、そして通じない母への電話、・・・何かがおかしい」この表現は最初に読んだときは、ジャバウォックに憑りつかれていた後遺症だとばかり思っていたのだが、まんまと伊坂幸太郎氏に騙されたのである。
読み返すと見えるキャラの行動の意味
答えが分かってから読み返しても面白かった。なるほど、ここに伏線が張ってあったのか。当然作者はそう思って文章を書いているのだが、読者の方は一回目では読み取れていない。だからこそ、違和感となって面白かったのだと思う。
読後感
読み終えたときは、量子としての罪の意識はかなり薄れていたというか、もうどうでもいいという感じにはなった。
印象に残った哲学的な記述は、いくつもあった。たとえば、
「現代では、たくさんの子孫を残すことよりも、それぞれの個人の幸福を大事にするようになっています。・・・むしろ人間は、種の繁栄よりも個を尊重するところまで行きついた。」これが人間で、だから人間なのだろう。
「自分の子供が恐ろしい言動を繰り返していて、それが悪魔のせいだと分かるのは、救いがあります。悪魔は祓えばいい。」
「本能はコントロールできて当然と思いがちです。だけど、・・・本能は気を抜いたら暴走する車みたいなもので、理性というハンドルでどうにか運転しているような状況です。」
「ヒトは集団生活で生き延びる種です。・・・だから、チームのメンバーには優しい。・・・助け合うし、時には自分を犠牲にしても相手を救う。ただ、その反対に、敵チームに対しては非情に接することができます。」 チームは、人種に置き換えても成り立つ。
「真面目な人間はいいよ。・・・ただ、真面目過ぎる人間は、他人も巻き込もうとする。そうなると怖い」
「ヒトは暴力と親切で進化、繁栄してきました。・・・安定と破壊、自分のエリアを平和に保ちながら、よその土地に攻め入っていく。両方が必要だから、本能的に組み込まれているんです。」
「破壊の時こそヒトは開放感を覚えるのかも知れません」
「他人と過去は変えられない。自分と未来は変えられる。」
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まとめ
この作品の魅力は、日本のどの家庭にもあるような状況で始まることで読者の興味を惹いたあとの怒涛の展開だと思う。読む価値は十二分にある。楽しい。やめられない、といった感じ。このジャバウォックという得体の知れないものは、ずっと古代から人類が引き継いできたもののような気がする。それをこの小説のなかで具現化することで、人々をある種の恐怖に陥れることに成功していると思う。こんな発想ができる伊坂幸太郎という作家にはこれからも注目していかなければならない。『さよならジャバウォック』は、ミステリーとサスペンスとSFが好きな読者に特におすすめの一冊でした。多少のネタバレ部分も含めて、あなたの読書体験の参考になれば嬉しいです。
〆
