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店長がバカすぎて 早見和真  本が好きで、頑張って働いている書店員さんにエールを贈るような物語。でもちゃんと謎解きもあります。

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まえがき
この本の備忘録として、あらすじと感想を残します。「〇〇がバカすぎて」というタイトルが6つあり、本書のタイトルと同じものが最初にありましたので、ああ、短編集だったのか、と思いながら読むと、そうではなくて登場人物は増えて行きますが、同じ主人公の話が続きました。

早見和真さんのプロフィール(本書の紹介文より)

1977年 神奈川県生まれ。はやみ かずまさ。

著者の作品(本書の著者略歴から)

2008年「ひゃくはち」でデビュー。31歳か、若いなあ。同作は映画化、コミック化されベストセラーとなる。14年「ぼくたちの家族」が映画化、15年「イノセント・デイズ」が第68回日本推理作家協会賞(長編および連作短編集部門)を受賞、テレビ化もされ大ベストセラーとなる。他の著書に「小説王」「かなしきデブ猫ちゃん」(絵 かのうかりん)などがある。

作品に関する情報など

2019年7月18日第一刷発行 発行者 角川春樹

あらすじ

・店長がバカすぎて

谷原京子(主人公:わたし)の実家は、神楽坂にある小料理屋<美晴>である。
そして、わたし谷原京子は、武蔵野書店 吉祥寺本店に勤務しているが、山本店長の朝礼には飽き飽きしている。
書店の店長であるのに大して本も読まない彼が朝礼で推薦する本など読む気もしない。

それでも京子がここを辞めずに働いているのは、就職する前から小柳先輩が書く本の応援コメントに心酔していたからだ。
その先輩から今夜話があるから飲みに行かないと誘われた。

その日、朝早く来店してきた常連客から、今日入荷すると聞いた「釣り日和」が無いとクレームがつく。結局見つからず、小柳先輩が防犯カメラビデオを再生して、自己啓発の棚に店長が置く姿を見つけて、怒りがこみ上げるのだった。
残業して、小柳先輩に誘われた飲み屋に行き、先に自分の愚痴を言ったあと、小柳先輩の話を聞いて愕然とする。なんと店を辞めるという。

小柳先輩が居なくなってからも、書店の日常は続く。
そして、「釣り日和」無い事件で、バイトの磯田さんを疑ったことで、磯田さんとの関係がまずくなっていたが、たまたま読書のために入った茶店で、磯田さんが本を読んでいることに気づく。その本は、京子が応援コメントを書いて初めて帯に採用されたものだった。

磯田さんから、私は谷原さんの書いた応援コメントからこの本に辿り着いて人生を救われたんですということを聞いて、自分と小柳先輩との関係が思い出された。おそらく小柳先輩は、イライラしているときも明るく振舞い、京子らに接していたのだ。それで自分も頑張れていたことを思い返していた。

本と読者をつなぐ仕事に憧れていたのなら、小柳が居なくなっても関係ないじゃないかという磯田の言葉には反論できないのだったが、ようやく関係の修復はできたようだ。

突然、京子は店長に相談を持ち掛けられる。しかも京子の実家の小料理屋を予約したという。親父は驚くが、店長は黙って飲むばかり。とうとう小柳さんが好きだったから自分も辞めると言いだしたあげく、私は誰かのために辞めないとか言ってカウンターで寝てしまうのであった。

店長が寝ている間に、読みたかった大西健也のハードボイルド小説「幌馬車に吹く」を読み、ついには嗚咽している自分がいた。ふと気づくと店には自分らのほかには、今読んだ小説に登場した私立探偵の妻のイメージと重なるマダムこと石野恵奈子さんが要るだけだった。

マダムは京子が読んでいる本に気づいて、声を掛けてきたが、京子はいまの大西健也の作品のレベルが低いと憤りを述べてしまう。
そして店長は寝言で京子には店を辞めてほしくないと言い、大西健也が覆面作家とも知らないでサイン会を開こうと言う。京子はこのバカ店長を見捨てられないと思うのであった。

・小説家がバカすぎて

前項からの続き。山本店長は、京子とバイト磯田さんが好きな作家の、富田暁先生のトークショーとサイン会を行うと言う。
京子は、応援コメントを書いた当時、お礼の手紙を貰っていた。本屋大賞への意欲も書かれていたが、実際には選に漏れたため、富田先生はSNSで業界不信を発信して、そのあともよからぬ噂が広まっていた。

デビュー作の応援コメントの縁から、二作目のゲラが届き、一読したが京子には富田先生が折り合いをつけて書いているように感じて失望した。
富田先生の編集者いびりの悪いうわさまで聞こえてきて、新しいゲラが送られてきても読んでもいなかったタイミングで、トークショーの話がきた。

京子は、心の救いを求めて実家の小料理屋で、主婦の石野恵奈子さんを探すが来ていない。そして22時、バイトの木梨さんから電話が入り、今日富田先生がお忍びで来店されたという。そして、バイトの磯田さんは富田先生とは気づかずに、新作を全く推薦しなかったため、先生は怒ったように帰って行ったという。

富田先生は、そのことを一年前のことと偽ってSNS上で不満をぶちまけていた。そのことを知らない店長と磯部さん。とうとうトークショーの当日となり、先生はイエスマンのご一行と来店された。
トークショーも無事終わるかに思えたそのとき、富田先生は文芸担当の磯田さんを指名して、最新刊の感想を求めたのである。

真面目な磯田さんは、つまらないものを面白いとは言えぬ性格で回答に窮していた時、なんとバカすぎる店長が余裕で対応し始めたのである。彼は富田先生のお忍びに気づいていたし、作品はすべて読んでいると言う。そして、書店の存在意義を熱く語り、それは京子の気持ちと一致していた。そして、とどめに富田先生のデビュー作の推薦コメントを書いたのは、当店の文芸担当・谷原京子です、と言い放ち、勝負はついた。

今の富田先生は、「空前のエデン」で描かれた、裸の王様そのものであった。
店長は、富田先生にエールを贈り、なんと京子に最新作「つぐない」の感想を求めたのである。

・弊社の社長がバカすぎて

京子は、富田先生のトークショーで、店長に突然感想を求められ、うかつにも「おもしろい」と言ってしまい、バイトの磯田さんの信頼を失うも、店長は満足げだった。

水曜日の今日、社長が来店するという。
本店の売り上げが、昨年より9%低下しているので、抜き打ちで視察に来るらしい。
売上低迷は、社長の思い付きで売り場を占拠しているグッズだというのに、社長本人は分かってないらしい。

視察に来た社長は、文芸部門の谷原京子に改善を求めるが、京子は社長の思い付きのグッズ販売のせいで売り上げが落ちていると思っているので謝罪する気はない。
谷原京子は、始末書を書けと命じられ、代わりに退職届を書いたが、間の悪い店長は出張でいない。

そして優秀なバイトの木梨さんが、就職が決まったので書店のバイトを辞めると言う。聞けば、就職先は出版業界最大手の往来館だという。お祝いに飲みに行こうと思っているところへ、連絡が入る。武蔵野書店の社長が酔っぱらって、商売敵のリバティ書店 神田本店で万引きをしたという。

谷原京子と店長はリバティ書店に駆け付けるが、店長同士で言い合いになる。京子はもうどうでもよくなり、そこにいたカリスマ店員の佐々木さんと実家で飲むことにして、その場を後にした。佐々木さんと話せば、店長らに対する不満は、全く同じだった。

・営業がバカすぎて

いつもの店長の長い朝礼に、谷原京子は今日こそは辞めることを店長に伝えようと思っていた。でも、リバティ書店のカリスマ店員の佐々木陽子さんに、京子ちゃんは辞められないよと看破されていた。そして29歳になった。
これまで自分を支えてきたものが音を立てて崩れ落ちる。ダメ押しとなる出来事が、この冬から春にかけて立て続けに三つ起きたのだ。

一つ目は、出版最大手の往来館から、ある雑誌の新年特大号を全ての書店員が強制的に買わされること。
二つ目は、二月分の給料があまりにも安かったこと。
三つ目は、往来館の営業の山中さんが、本日、来月発売の文芸書のチラシとゲラを持って挨拶に来るということ。今までうちを軽く見て一度も足を運んだことがないのに、である。

営業の山中氏に同行してきたのが、この前辞めたバイトの木梨祐子であった。
挨拶のあと、木梨さんから食事に誘われたが、谷原京子は金欠であった。
お礼がしたいと言う木梨さんの粘りに負けて、水曜日に食事の約束をした。彼女が選んだ店は、銀座のイタリアンだった。そして感想を聞かせてほしいと渡されたゲラを読むのに苦労した。タイトルが長く分かりにくい。中身のテーマは自分好みではあったが、表現が自分には合わなくて、心が弾まなかった。

同じ文芸担当の磯田さんがそのゲラを読んで、すごく良かったとメールが来た時、バイアスの掛かっていない心で、このゲラを読めていない気がして、谷原京子は、もう辞め時かなとつぶやくが、石野さんと親父の言葉に少し救われた。

ついに、銀座で業界トップの往来館に転職した後輩の木梨さんと食事をする日がきた。話も弾んだころ、例のゲラの感想をもとめられた谷原京子は、やはり自分に嘘をつくことはできなかった。おもしろくなかったと伝えた。

予想に反して、木梨は谷原のこたえに驚きはしなかった。木梨に同行した営業の山中の誤解も解けた。彼は出版社の営業と書店は、同じ舟に乗っていると考えている男だったのである。
そして、木梨からは、なぜ正社員になろうとしないの!と、喝まで入れられた。
思い切って、正社員への意志を伝えるために店長室に行くと、店長は全てわかってくれていた。はずだった・・・。

なぜか店長は、吉祥寺のど自慢大会に出演して、谷原京子を励ます歌を披露していたのだった。この章は、「店長がバカすぎて」の間違いではないのか。。。

・神様がバカすぎて

イヤな客ばかりが来店する日。神様ことお客様でもあるイヤな三人が同じ日に来店した。

No.1 「おい、お前、新聞に出ていた新刊本を持ってこい!」と言う神様。
No.2 滑舌が悪いのに、聞き返すと怒る神様
No.3 谷原をとても気に入っていて話の長い老婆神様。
の三人らしい。

と沈んでるところに、マダム藤井美也子がお客として登場。お客様に声掛けして飲み屋まで行くというのはNGらしいが、飲み屋へGO!
そして、富田先生とデートしたことを話す流れになってしまった。
京子もまんざらではなかったが、富田先生から次のデートのお願いをされたとき、ふと店長の顔が浮かんで、断った!?

その翌日、出版最大手の往来館に転職した木梨祐子さんがやってきて、大西健也先生が顔出しすると言う。そして驚くなかれ、大西先生から書店関係の面々にゲラ読みのご指名が掛かり、その中に谷原京子が入っているという。そしてもう一人、かつて神保町にあったモニカ書店の藤井美也子さんを探してゲラを読んでほしいとのことであった。

マダムこと藤井美也子さんと会う約束をした日、実家の小料理屋へいくと、なぜか店長が一人で飲んでいる。仕方なく隣に座る京子。
店長が、ついに京子に告白するのか、という期待は予想通り裏切られ、自分の異動について語るのだった。拍子抜けというか、失望している京子。そこへ石野恵奈子さんが、冴えない姿で登場したが、あいさつもそこそこに離れて座る。

空気の読めない店長は、自分が異動になるまでに、大西先生のサイン会をやり、谷原京子を正社員にしたいと言う。
何も知らない店長に、大西先生は覆面作家だからサイン会は無理ですと京子が話していると、ようやく藤井美也子マダムが登場したが、店の入り口で急に泣き出した。

・結局、私がバカすぎて

小料理屋<美晴>に居た面々は、マダムが来てみな静かに店を去った。
翌日、全くマイペースで長い朝礼に、京子は記憶がないほどブチ切れてしまい、気づけば数人のスタッフに羽交い絞めにされていた。
その日の昼、店長から何事も無かったかのように、今日、往来館から営業がくるので対応するよう依頼される。やってきた木梨さんと山中氏の様子がおかしい。

喫茶店で、大西先生の新作のゲラを渡す二人の顔が「鬼気迫る」ものだった。
二人が帰った後、以前店に居た小柳真理さんと食事をする約束も忘れてゲラを読み終えた。
そのあと、店長の転勤、大西先生のサイン会、新店長の誕生など話が進む。そのなかで、大西先生の正体が明かされる!ここは書かないでおこう。
忘れるから、「備忘録として、あらすじを残します」とうたっているのですが。。。

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作品の感想

・店長がバカすぎて

これは、書店員のお話であるが、会社で働くということにおいては、どのような職業でも同じであると思うと同時に、会社の風土や規模、品格、構成する人たちによっては、上司がどうしようもないバカばかりではないはずだとも思う。とは言え、外れはある。その部下たちはうまくやっていくしかない。小柳さんのように目標とする先輩がいる京子さんは大変恵まれていると言える。

途中で主人公の書店員の読書の仕方、それもいい本に出合えたときについて書いてあり、新鮮であった。『一気に「プロローグ」と「第一章」を読み終えたとき、私は本を閉じた。最初のページに戻って、一から読んでいく。本当にいい本に出合えたとき、私は決まってそうしている。』 ひとつのヒントを貰ったような気がした。

京子は、憧れの小柳先輩がいてここで働いていたが、先輩が辞めてしまってからは元気がない。それで自分も辞めてしまおうかと思っていたところで、バイトの磯田さんが京子の応援コメントからいい本に出会い人生を救われたと知る。京子が辞めたら磯田はどうしたらいいのかということに気づき、一瞬で立場が入れ替わった。この瞬間に、読者は感動するのだろう。わたしもだが。

・小説家がバカすぎて

前項からの続き。山本店長は、京子と磯田が好きな作家である富田暁先生のトークショーとサイン会を行うと言う。
ところが、富田先生は本屋大賞の選に漏れて、SNSで業界不信を発信して、そのあともよからぬ噂が広まっていた。
京子はこう思っている。「小説家という人は書く者だけが全てであればいい。あまりSNSをやってほしいとは思わない。」これもファン心理の一つ。ほかのファンとの馴れ合いなど見たくないのだろう。

・弊社の社長がバカすぎて

仕事は好きなのに、店長や社長がバカすぎて辞めたいというのは、分からなくもないが、好きなことは簡単には変わらないから、辞めてもまた同じような職業に就くのではないでしょうか。
カリスマ書店員もカバンに退職届を何年も入れていると聞いて、谷原京子も安心しただろう。

この章の話で、社長の万引き事件のあと、店長と店長、店員と店員同士で仲良くなってしまうのは、ライバル店はこちらのことをライバルとも思ってないからかもしれない。

私は上司や社長がバカすぎると思ったことはないが、後輩の管理職に対しては、ちょっとなあと思うこともある。人材不足でしかたがないとか、偉そうなことも思ってしまうが、自分が代わりにやってやろうかという気力もない。
いろいろ考えるとき、実家が小料理屋で、そこで飲めるという京子さんが、うらやましい。

・営業がバカすぎて

転職したバイトの木梨さんが、良かれと思って持ってきたゲラを読んでも、谷原京子は、いいとは思わなかった。『そもそも本の感想なんて千差万別であるはずだ。誰かにとって救いになり得る物語が、誰かにとっては強烈な批判の対象だったりする。ネット上のレビューがいい例だ。』

谷原京子のこの考えは、こうやって感想を書いている自分に対しても言えることである。勝手な感想を、勝手ながら世間に披露しているからである。
さて、営業がバカすぎるとは、どういうことだろう。あらすじのところでも書いたが、バカすぎたのは店長と新人営業マンの木梨さんであった。

・神様がバカすぎて

お客様は神様です。あ、バカはお客様かな。。。
いつの間にか、京子は店長が好きらしい感じになっていて、結局は母性本能をくすぐられるダメ店長が好きになったんかい!と突っ込みたくなるのである。

そう言えば、本カバーの「バカ」の文字も、なんだか愛情に溢れているように見えてきた。
昔、神保町で本を勧めてくれたお姉さんが、マダムこと藤井美也子さんだと分かり、実家の小料理屋で会うことになるが、その小料理屋に、常連らが集まり始める。しかしみな様子が変である。なにか大きな秘密が、最終章で暴かれるような気がしてならない。

・結局、私がバカすぎて

二七〇ページまで読んで、気づいてしまった。これはちょっと感動。いや私もこれくらいで感動するとはまだまだです。結局、「読者のおまえもバカだろ」と言われているような気がした。さて、合ってるかな、私は二七一ページから読書を再開した。
結局、このタイトルは読者の私のことではないか、と思うような面白い結末であった。アナグラムという言葉をご存じでしょうか。覆面作家も好きそうです。

主な登場人物紹介

私:谷原京子 武蔵野書店 吉祥寺本店店員 28歳 TANIHARA KYOKO
実家は小料理屋で親父が営む。母は他界。
山本猛店長:武蔵野書店 吉祥寺本店の店長 もうすぐ40歳 YAMAMOTO TAKESHI
武蔵野書店の先輩:小柳真理 35歳 KOYANAGI MARI
バイトの磯田真紀子さん ISODA MAKIKO
作家の大西健也先生 OONISHI KENYA
石野恵奈子さんは、実家の小料理屋の常連客で主婦 ISHINO YENAKO
バイトの木梨祐子さんは、最年少ながら一番しっかりしている KINASHI YUKO
武蔵野書店の柏木雄三社長 KASHIWAGI YUZO
往来館のカリスマ店員 佐々木陽子さん 33歳 SASAKI YOKO
マダムこと藤井美也子さん FUJII MIYAKO

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