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『スワロウテイルの消失点』感想・あらすじ・考察|法医昆虫学捜査官シリーズ第7巻

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目次

紹介と読後の印象

 物語は、東京・杉並区で発見された腐乱死体の司法解剖シーンから始まります。
法医昆虫学者・赤堀が立ち会う中、突然、解剖室の関係者たちが「発疹・出血・激しい痒み」に襲われ、感染症パニックが発生。
 原因不明の症状により、関係者は隔離され、現場は混乱を極めます。
 この異常事態に対し、赤堀は冷静に昆虫学の知識を駆使して、症状の原因と死体の状態を分析し始めます。

読後の印象

  • 感染症という現代的なテーマが、リアルな恐怖として描かれており、読者の没入感を高める。
  • 赤堀の冷静かつ理知的なキャラクターが際立ち、シリーズの中でも特に「緊迫感」と「スピード感」が強い。
  • 科学的な推理と人間ドラマが絶妙に絡み合い、「知的好奇心」と「感情的緊張感」の両方を刺激する。
  • 読後には赤堀先生、深水刑事の過去の闇ついても考えさせられ、少年の「不登校」と赤堀先生の少年指導に涙がこぼれる(かも)。

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あらすじ(全体)

 赤堀は、死体に付着した昆虫の痕跡から「死亡推定時期」や「遺体の移動経路」を読み解く。一方、刑事・岩楯と深水は、被害者の身元や周辺の人間関係を追い、事件の背景を探る。
 物語は、赤堀の科学的推理と刑事たちの捜査が並行して進み、やがて一つの真相に収束していく。
 終盤では、赤堀と夏樹、岩楯と深水という2組のコンビがそれぞれの視点から事件の核心に迫り、意外な真実が明らかになる。

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登場人物

捜査分析支援センター(科捜研から分離されたマイナーな部署)

 波多野光晴 研究職(還暦前)
 廣澤春美 プロファイラー(43) 170センチのナイスプロポーション
 赤堀涼子 法医昆虫学者(36) 主人公 155センチ

大吉昆虫コンサルタント
 辻岡大吉 赤堀の(大学の)後輩 ウズベキスタン人ハーフ

西荻窪警察署
 岩楯祐也刑事 メインキャラ
 深水巡査部長 低身長160足らず 性格が掴めない男

被害者
 飯山清志(72)杉並区下井草 独居老人 結婚歴なし

あらすじ(詳細・ミステリ要素中心に、人間ドラマ要素は感想で)

感染と隔離

杉並区下井草の一軒家で独居老人の飯山清志さんが居直り強盗に殺された模様。
解剖で腐敗した血液が飛び散り、署長らまで病に感染したかと思われたが、原因は小黒蚊に刺され、ものすごい腫れが出たというもの。

被害者宅の隣の家が発見者の家で、小太りの70くらいの女。飯山さんが最後に目撃されたのが6月16日で、警察に通報したのが7月3日。二週間も空いている。

(豆知識)ツバメが低空を飛んでいるとき、明日は雨。なぜならエサの虫たちが湿気で翅が重くなり低空を飛ぶからである。(54)

死亡推定日時の特定を、現場写真のウジムシの羽化とその成虫のホオグロオビキンバエの生態から行う。どういうことかというと「生き物が死ぬと十分以内に到着して卵を産み付け、17日かけて成虫になる」ので、現場写真に羽化したそのハエが映っていたのなら、その写真撮影日から17日前が死亡日時となる、ということらしい。これはとても正確な事実らしい。

赤堀は、現場でさらにカバキコマチグモ、通称クチグロを発見する。

法医昆虫学者の助手

翌日、飯山宅の隣人の主婦が、ビニール紐で口を括られてぶら下げられているカラスの死骸があると訴えてきた。こちらはそれどころではない。殺人の調査に来ているのだ。

赤堀准教授は、小黒蚊とクチグロがどうして現場にいたのかの見当がつかないで困っていた。この虫たちがここに居るということは、近くに生活圏があるはずだが、全く見つからない。現場の近くに住んでいるはずなのである。

岩楯刑事は、上品な川柳の会の面々に聞き取りを行った。誰も飯山さんのことを悪く言う老人はいなかった。だが、急に金遣いが荒くなったという。

聞き取りからの帰りに、車の中から空き巣を発見した深水刑事は、その場で犯人を検挙した。そしてその男から、飯山宅から逃げる犯人を見たという情報を得た。その犯人らしき男は、あるスーパーの値引きタイムに現れるという証言に基づいて張り込み、その男を捕まえた。

その男とは、木暮浩孝35歳。最初は余裕で取り調べを受けていたが、根負けして余罪を自白し、さらに飯山宅の老人が死んだと伝えられて驚愕した。おれは殺していない!と叫び出した。

当日、もうひとり共犯者がいた痕跡があったため、殺人犯は共犯者のほうだと考えられていたが、単独犯の前科しかない木暮が今回複数で犯行に及んだとは考えにくかった。

そしてみずほ銀行から警察に連絡が入り、飯山は1億円の高額当選者だったという新たな情報がもたらされた。

SOSのサイン

飯山は高額当選のことは誰にも話しておらず、犯人は販売側の可能性が高くなった。

赤堀涼子博士と波多野先生が考えた、虫の巣の捜査作戦は、捕獲したカバキコマチグモ、通称クチグロの足に防犯用のカラーボールに使う塗料を付けて、現場に放ち、追いかけるという古典的な作戦だ。

夜になり、クモの足跡を特殊なライトで照らしながら追跡し、途中で見つけたプレハブ小屋にツバメの巣を発見した。そのとき、赤堀先生は何者かに狙撃され、おでこに軽傷を負った。すぐに近くにいた少年が逮捕された。その少年こそがカラス殺しの犯人だった。赤堀先生の話では、虫たちは、海外からツバメによって運ばれ、今回の事件のときはツバメの巣に住んでいたということになるらしい。

さて、取り調べられている木暮が新たな供述を岩楯刑事にだけ話した。事件当日、飯山さんは誰かを連れて帰ってきたと言う。この話は、捕まえた少年の話や捜査資料の記載とも一致する内容だった。

帰りの車の中、捕まえた少年、夏樹くんが釈放されたことにいら立つ深水刑事は、自分の闇を語りだした。自分もいじめられていたが、それが夏樹くんと似ていること、赤堀准教授がその当時のうざい学級委員長の女の子に似ていること、その子は自分を励ましてくれたが、実は彼女も家で継母に虐待されていたことを知り、赤堀先生もそうじゃないかと思ったことなどを一気に岩楯刑事に話したのだった。

二つの道が交わる場所

赤堀先生は夏樹とともに町内会長宅を訪ねた。

そして、夏樹くんはカラスの死骸吊し事案について、自分が犯人であること、その行為はツバメを守るためだったことを告白して謝罪した。会長は自然界のことに手を出してはいけないと夏樹くんを諭した。


捜査で進展があった。事件当日、スーパーで高級食材を買った飯山老人は、スーパーの第二駐車場で頭の薄い中年の痩せた男と話していたと言う。この男の車で飯山宅にもどり、泥棒の木暮と遭遇した。驚いて泥棒の木暮が逃げたあと、いっしょに来たこの中年の男が二階で飯山さんを脅して金庫の一億を奪ったあと、飯山さんを殺害し立ち去ったというストーリーが見えてきた。

それから、飯山さんの部屋に開封もされていない空気清浄機があり、これについて近くの家電量販店を当たると、販売を対応した店員が見つかり、貴重な証言を得た。やはり飯山さんは、頭の薄い中年の痩せた男といっしょに買いに来ていたらしい。

赤堀先生と夏樹、そして波多野先生は、小黒蚊を体に着けたツバメがどこからやってきたのかを追跡していた。飯山宅から半径250メートルの円内がツバメのテリトリーらしい。

岩楯刑事と深水刑事は、飯山宅で発見した老人ホームのパンフレットが気になり、その老人ホームを訪問した。そして飯山さんが何回も下見に来ていたことが分かった。そして帰りはいつも介護タクシーを指名で呼んでいたことも分かった。この十文字という介護タクシーの運転手はヘルパーの資格も保持し、飯山宅へも出入りしていたとみられた。親しくなったきっかけもホームの職員から聞いた。飯山さんが介護タクシーにバックを忘れて届けてくれたことや、そのバックには人には見られてはいけない大事なものが入っていたから助かったというようなことを飯山さんが言っていたことも聞き出した。

岩楯刑事と深水刑事の推理では、その見られてはいけないものは、とうぜん介護タクシーの運転手は見たであろうということで、何を見たのかを考えに考えた。

そしてついに思いついた。そう、高額当選者に渡される「その日から読む本」という小冊子がカバンに入っていたのではないか。そして介護タクシーの運転手は、それを見てしまったのではないか、と。

覚悟と減らず口

この章ですべての謎が回収される。
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スワロウテイルの消失点 法医昆虫学捜査官 (講談社文庫)

感想・考察

この小説は、ミステリーの中に、人と人との“見えないつながり”を静かに描き出す作品だ。不登校の少年と赤堀先生の交流には、言葉にならない優しさと再生の兆しがあり、読者の心にそっと寄り添う。深水刑事の過去に触れる場面では、赤堀先生との対比が静かに浮かび上がり、過去の痛みが現在の行動にどう影響しているかを考えさせられる。そして、赤堀先生自身の“消失点”はどこにあるのか。彼女はかつての家庭環境で心に深い傷を負い、それが今の彼女の生き方や人との距離感に影響を与えている。過去の喪失と向き合いながらも、彼女は静かに他者と関わり、再びつながりを築こうとする姿が印象的だ。小黒蚊やギンバエ、カバキコマチグモなどを追う謎解きの緊張感の中に、静かな人間ドラマが流れていて、読後には深い余韻が残る。人の心の奥に触れたい読者にこそ、ぜひ手に取ってほしい一冊です。

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