ちょっとした違和感を見逃さない。
小説のタイトルが気になって手に取った。
だが中身は7つの短編。Rのつく月は8つあるが、どういうことなのか。カウントミスか?
あらすじ
ふたつ目の山
越えるべき山が二つあるのに一つ目の山のことしか考えていなかったというこのタイトルにマッチする過去の友人のエピソードについて、二組の夫婦のホームパーティーで、ホストの長江孝明が真相を推理するというものだった。
ある友人が上司から大きなマッサージ器をもらった。上司からもらうのを拒めば夫の出世に響くので貰ったことで「1つめの山を越えた」、だがマッサージ器が大きすぎてマンションの玄関から入らないという「ふたつ目の山」にぶちあたったとその友人は思ったのだが、それはその友人の妻からみれば「ちがう山」であった。
実は友人の妻はそのマッサージ器が玄関の間口より大きいことは分かっていた。頂いた古いマッサージ器は大きすぎて家に入らなかったので、夫は分解して持ち込むことで「ふたつ目の山」を越えようとしたが、ネジが潰れて修理不可能になったので破棄するしかなくなった。
夫は「ふたつ目の山」を越えられなかった。だが大学准教授の長江孝明は、その友人の妻は「ふたつ目の山」を越えたという。つまり奥さんの思い通りになったという。その理由を大学准教授の長江高明が解き明かす。
一日ずれる
また四人でホームパーティー。今度は冬木家。子どもの名前の由来について雑談。
ともに祖父母の名前から一文字もらう。アメリカ生まれの咲にはミドルネームまである。
今日飲むのは米焼酎。肴は刺身用のサーモンを酒粕と塩麴と日本酒に浸けたもの。
一晩寝かすか、二晩寝かすかで味わいが変わる。
さて、今日は知人の双子のエピソードが話題に。その双子は三つの塾通いをしていたが、すべて1日ずらしていたという。その理由を大学准教授の長江高明が解き明かす。
いったん別れて、またくっつく
今日のお酒は秋田の日本酒。肴はイカの肝焼き。
イカの肝焼きは、いったん肝を取り出して味付けのときに再投入する。
そして夏美は会社の美帆ちゃんの恋愛について思い出した。
美帆ちゃんは、「別れたが妊娠していてまたよりを戻した」という話だが、ここにいる四人はそんな出来過ぎた結論に満足しない。妊娠してから二年後に結婚というタイムラグに納得がいかない。
その理由を大学准教授の長江高明が解き明かす。これはちょっと難しいかも。
いつの間にかできている
今夜の酒は紹興酒。肴は鶏手羽の煮付けキムチ風味だ。
この鶏手羽の煮付けは、電気圧力鍋を使えば、材料を入れてスイッチを入れてほっておくだけ。
そう、いつの間にかできているのだ。
さて、これで夏美が思い出したエピソードは、息子の大君の同級生で中学受験の話である。
ひとりは男子で親が教育熱心、もうひとりは女子で親は教育熱心というより荒れてない学校に行かせたい親の二組のエピソードだった。
結果的には親が教育熱心だった男の子は第三志望高に合格し、そうでもなかった女の子は第一志望高に合格したあとの親同士の自慢話の内容から、大学准教授の長江高明は世間の認識とは異なる結論を出してみせるのである。
適度という言葉の意味を知らない
冬木邸。酒はオーストラリアのシャルドネ(白ワイン)だ。
バラ肉の脂を適度に落とすとちょうどいい。白ワインに合う。
というわけで、今回のエピソードは「適度」!
夫の健太の元部下の杉安さんのエピソード。
海外の仕事がしたくて転職したらしいが、彼は適度を分かっていなかったらしい。
床の掃除は部屋の真ん中だけロボットにさせるという適当さだがシーツの洗濯は完璧。
人事部のほかの仲間(男二人と女一人)と4人でよく飲んだあと、その後輩君の家のきれいな部屋の真ん中で二次会をしたらしい。
彼は転職の前に彼女と別れている。
原因は何だ?すると話を聞いていた長江高明准教授が話し出した。その元部下の杉安さんは適度という言葉の意味をしらないのではなく、適度という言葉の使い方を間違っている。ちょっと屁理屈っぽいかも。
タコが入っていないたこ焼き
今回は長江邸にビールサーバーとタコ焼き器。
たこ焼きからタコを抜くと、まったく美味しくないのだ。
このことから夏美が離婚した斎木さん夫婦のことを思い出した。
PTAの母親の飲み会では旦那の悪口大会になるらしい。その中でも斎木さんの話が独創的だった。
「うちの旦那は肩書ほど有能じゃない」と言っていたという。
日常のちょっとした判断や行動に不満が積ったのだろう。
人間力が低いのだ。そうなると肩書はかえってマイナス。
たこ焼きにたとえると、外はカリカリでいい(学歴)だが、中身にタコが入ってなくて(実は能力がない)まずい、ということ。
「奥さんは思い込みで離婚したのかも」でも「結果的には大正解」
どういうことか? その理由を大学准教授の長江高明が解き明かす。
一石二鳥
最後も長江邸。酒はシードル、肴はホットサンドメーカーにカセットコンロといえば、ホットサンドだ。
シードルの度数は5%。ビール感覚でいける。
ホットサンドメーカーは、「一回の調理で、ふたつの調理法を同時にやっている」
つまり、表面は焼いているが、中は自分自身の水分で蒸している、だから外はカリカリで中はふわふわになる。一石二鳥だ!
ということで、むかしの明日香さんと高坂くんの話になった。
ふたりの子供の智樹くんは工作が好きで、読書は嫌いだった。夏休みの宿題の読書感想文が苦手だった。
そこで智樹くんは考えた。社宅仲間の同級生の美紅(みく)ちゃんに宿題の交換を提案した。
美紅ちゃんが苦手な自由研究の工作は自分がするから読書感想文を書いてくれないか。
智樹くんは、好きな工作ができて、苦手な読書感想文を書かなくていい。
美紅ちゃんも苦手な工作をしなくて、好きな読書ができるから、お互いに一石二鳥だ。
ところが、智樹くんは美紅ちゃんにこの提案を断られてしまった。なぜ?
息子の大くんに意見を求めると、「その夏休みは、智樹くんにとって苦い思い出になっていると思う」と答えた。
それはなぜか!? その理由を大学准教授の長江高明が解き明かすのではなく、今回はなぜか大君が謎解きを始める。
そして、とんでもないサプライズまで用意されていた。この謎を解き明かしたければ読んでみるしかあるまい!
書籍情報
・形式 単行本
・出版社 祥伝社
・ページ数 224頁
・著者 石持浅海
・発行 2019年8月20日
・分類 短編ミステリー
著者情報
1966年愛媛県生まれ。九州大学理学部卒。2002年『アイルランドの薔薇』で長編デビュー。03年に上梓した『月の扉』は様々なミステリー・ランキングで上位に選ばれ、日本推理作家協会賞の候補となる。『扉は閉ざされたまま』が06年版「このミステリーがすごい!」第2位に選ばれベストセラーに。本作は07年刊行『Rのつく月には気をつけよう』の続編。ほかに「碓氷優佳シリーズ」(小学館)「座間味くんシリーズ」『殺し屋、やってます。』『崖の上で踊る』『不老虫』など著書多数。 (本書の情報から)
〆

