悠々として急げ

 ~未知との遭遇 in books & libraries~

隠蔽捜査 今野敏 ここから、東大卒・変人・竜崎警視長の活躍が始まる!

 

拙評

国家公務員甲種試験で警察庁に入庁した時点で、警部補になり、たった九ヶ月の警察大学校での見習い期間を経て、警部となる、らしい。この時点で現場の刑事たちの階級を追い越してしまうという。そりゃいじめられるわ。
そして、二年間警察庁勤務と一カ月の補修で、警視となる。らしい。これでキャリアの出来上がり。らしい。
そして、2~3年ごとに地方回りを繰り返すという。現場からすれば、いやな奴が、しょっちゅう上司としてやって来ることになる。
なんで、こんなしくみにしているのだろう。
ほかの国はどうなのか?

警察のキャリアは超多忙なため、平日は疲れて帰宅すると、ルーティーンのように、食事、入浴、就寝となる。という点は多少同情の余地がなくもないが、我々サラリーマンも全く同じであることを考えれば、やはり同情の余地は微塵も無い。

著者は、日本の刑法犯に対する量刑の軽さを、中国などと比較して訴えている。中国では死刑になるような犯罪でも、日本なら五年程度の服役で済む。日本の警察は滅多に拳銃を抜かない。外国人の犯罪者が増えている背景ととらえている。
また、少年なら殺人、強姦も大した罪にはならない点も指摘している。

さて、竜崎警視長のような人間は、まずいないだろう。自分の保身を考えず、国家のために、警察の威信を保とうとするなど、普通の警察の人間にはできないと思われる。

危機管理とはこうあるべきだという思考は、客観的には驚愕するほど正しいとは思われる。

その考え方を忠実に実行すると、家族が可哀そうな気もするが、結局はそれが一番ダメージが小さくて済むという冷静な判断を下せる竜崎のような人は、ほぼ居ないと思う。

人はみなそのダメージをゼロにしようとして、判断を間違えてしまうのだろう。

隠蔽捜査の結末としては、何人かは左遷されたが、被害は最小限で済む。

むしろ竜崎は、警察庁の上層部や関係者などから感謝される。このことは、あとから大きく返って来るに違いない。


あらすじ

深夜に殺人事件で竜崎は同期の警視庁・伊丹刑事部長からの電話で起こされた。さいたま市の潰れたスナック跡殺人事件だ。被害者は、綾瀬署の暴力団員殺人事件の被害者・保志野俊一と同一の過去事案で逮捕され、服役していた水戸信介だった。拳銃で撃たれたようだ。
彼は、33歳で、保志野俊一と過去の誘拐・強姦・殺人・死体遺棄の共犯である。

主犯格は服役中で、当時少年だった何人かが出所し、今回二人が拳銃で殺害されたのだが、警察庁内では、それほど重要視されていないようだ。

疲れて帰宅した竜崎が、大学受験勉強している息子の部屋に立ち寄ったところ、衝撃の光景を目にする。息子の手にはヘロインたばこ。一流私大に合格するも、東大意外は許さなかった竜崎は、息子に前科が付くことで、これまで築いてきたキャリアが一瞬にして崩れることを覚悟した。

そんなことは関係なく事件の捜査は進展してゆく。捜査本部の伊丹刑事部長から犯人像や次に狙われると考えられる人物などの情報を聞き出した。

一週間ほど経過して、伊丹から新たな殺人事件の連絡があった。被害者は宇部孝夫38歳。鈍器による撲殺とのこと。今度の被害者も過去に犯罪歴があり、社会復帰して働いていたという。

犯人は、もしかして「社会正義」犯かもしれない。だが、最初の二件と手口が違うので、「社会正義」&「模倣犯」という線も出てくる。事件は一層ややこしくなってきた。

警察庁総務課は、マスコミが犯人に好意的な記事を載せたり、ワイドショーでコメントしたりするのをチェックし、注意の呼びかけをすることも大切な仕事である。

広報の谷岡と話した竜崎は、カレンダーの犯行日に印を付けてみると、ある規則性に気づいた。犯行日の並びが、警察官の三交代制の非番の日のパターンに一致していた。

犯人の動機は、過去の事件で被害にあった被害者の身近な人間の怨恨か、社会正義や義憤の二つが考えられたが、社会正義のような抽象的な殺人は、あまり現実的ではないと思われた。

息子の件でも悩んでいた竜崎は、伊丹にそのことを相談すると、意外な答えが返って来た。彼は息子の事案を「もみ消せ」という。伊丹は、タテマエばかり言う竜崎に、「今回の犯人が警察官だったら、その事実をもみ消す」とまで言った。

そんなとき、竜崎は、大新聞社・東日の社会部部長の福本多吉に呼び出されて、とある料亭へ赴く。事件のことを聞かれるのか、息子のことを聞かれるのか、やや緊張していたが、ほんとうに情報が無くて困っているのだった。

早く帰って、久しぶりに息子や娘と会話をした。息子からはヘロイン取引の情報、娘からは就活や結婚相手のことなどを聞いたが、知らないこともあった。父親としては何もできていない。

再び、竜崎に福本から連絡が入る。今度の事件を村松元長官狙撃事件のときのように、自供犯の自白の信ぴょう性が無いとの理由で、事件を迷宮入りさせるつもりではないのかという。

竜崎は捜査本部の伊丹のところへ行き、事の真偽を確認しようとした。驚いたことに、伊丹らは、警察庁の上層部からの指示で、そのような流れを作り出そうとしていることが分かった。竜崎にとっては、看過できない流れである。

万一、事件の隠蔽工作が明るみにでれば、マスコミは大騒ぎし、警察の権威は失墜するだろうと考えられた。竜崎は、それを避けたかったが、警察庁長官までもが隠蔽に加担しようとしているのだ。どうする竜崎!

竜崎は、牛島参事官に自分が泥をかぶるから、事件を早期に公表するよう進言するのだった。
竜崎は、捜査本部の伊丹のところへ行き、迷宮入りの指示を出した坂上第一課長の指示は無視するように説得を続けた。竜崎は、一旦は了解し、明日の記者発表で警察官の自白を公表することを了承したかのように見えた。

さらに、竜崎は自宅へ戻り、家族全員を集合させた。息子の自首の指示と娘の結婚への影響、自身の降格と地方勤務の可能性を告げたのである。こうなったら退職したほうがましか。



そのあと、竜崎は伊丹と連絡が取れなくなる。胸騒ぎがしたため、伊丹の自宅へと押しかける。そこには、常軌を逸した伊丹がいた。竜崎に迫る「命」の危機!?

主な登場人物

<キャリア>
 【警察庁】長官
 【警察庁】主席監察官
 【警察庁】長官官房長
 【警察庁】参事官 牛島警視監 50代
 【警察庁】長官官房 総務課長 竜崎警視長 東大卒 47歳 鹿児島出身 主人公
 【警察庁】刑事局長 阿久根警視監
 【警察庁】刑事局 捜査一課長 坂上警視正
 【警察庁】広報室長 谷岡警視正

 (警視庁)刑事部長 伊丹警視長 私立大 同期 警察庁刑事局に従う立場。

<叩き上げ>
 (警視庁)捜査一課長・田端守雄警視
 (警視庁)管理官・池谷洋一警視
 (警視庁)管理官・池田厚作警視


今野敏さんのプロフィール

1955年北海道生まれ。 上智大学在学中の78年に『怪物が街にやってくる』で問題小説新人賞を受賞。 2006年、『隠蔽捜査』で吉川英治文学新人賞を、08年『果断 隠蔽捜査2』で山本周五郎賞、日本推理作家協会賞を受賞。