著者:市川憂人、伊与原新、新川帆立、辻堂ゆめ、結城真一郎、浅野皓生
はじめに
この本は、東大出身のミステリー作家が書いた、東大を絡めた短編ミステリーを集めたものである。

902円
泣きたくなるほどみじめな推理 市川憂人
1995年、阪神・淡路大震災で従姉妹の史乃姉さんを喪う。
その半年後に東大に入学し、史乃姉さんが所属していた文芸サークルに加入したが、彼女と従姉妹であることは話していない。
主人公しか合鍵を持っていないはずの史乃姉さんの部屋に侵入し、本棚一段分の本を持ち去った犯人が、サークルの中にいると思っている。
主人公の推理は、弱小文芸サークルの賢くて癖のある先輩方を敵視する内容であったが、その推理が泣きたくなるほどみじめになるものだった。
東大の先輩は賢くて優しい。
アスアサ五ジ ジシンアル 伊与原新
東京大学地震研究所に題名のハガキが届いた。
斉田茂之教授、浅川准教授らが受け取った。
ムクヒラの電報に似た文言「アスアサ五ジ ジシンアル」
長野で震度5強の地震が起きたのは昨日、はがきの消印は一昨日だ。予知できたというのか。
その文面は、かつて「虹で地震を予知する」と注目を集めた地震研究家の椋平広吉の電報に似ていた。
大学院生の南沢亘は、セミナー発表の準備で研究室にいたが、夕食を取りに外へでた。
通称「おばけ階段」を通る。上りは40段だが、下りは39段になるという。答えは錯覚だと分かっている。
小学校低学年くらいの子が、夏休みの自由研究のため、その「おばけ階段」にいた。
上りと下りでほんとうに違うときがあったので、それを友人に証明したいと言って階段を数えていた。
だが、段数に違いがないことは大人の間では有名な真実なため、彼は間違っているのだった。
さて、大学職員の和辻さんは70歳で、過去の地震計のメンテナンスをしているが、もう退職するので、山中さんに引き継ぎをしている。
夏休みの自由研究をしていた小学生から、その山中さんがいつも決まった時間に、おばけ階段の途中にあるポストにはがきを投函しに来ていることを聞いた。ムクヒラの電報に似た怪文を投函していたのか?
その行動には、関東大震災の予知にまつわる過去の遺恨が関係していた。
そして、階段の研究をしている小学生と大学の山中さんには、ある共通点があった。
東大生のウンコを見たいか? 新川帆立
なんだか良く分からないうちに、新川帆立さんとその友人の女先生の話に引き込まれていた。
友人の水神凛々子は、東大刑法学研究室の准教授である。(以下リリー)
研究室を訪問した新川帆立さんに、リリーはウンコ浄化の話をする。
帆立が今もらって飲んだ水の原材料は東大生のウンコらしい。
浄化の研究のため、ウンコを収集していた農学部の田所君が後ろから押されてウンコのタンクに落ちで死にそうになり、運搬してたウンコが無くなっていた事件についてリリー先生に相談していたらしい。ウンコを盗んだ、そしてその目的のために自分を殺そうとした犯人を捕まえてください。
この話に帆立も巻き込まれる。
犯人は以外に近くにいて、盗撮犯だ。
この馬鹿馬鹿しい新川帆立先生の創作にあなたも付き合ってみよう。そんな趣向の人いるかなあ。
片面の恋 辻堂ゆめ
東京大学前期教養学部の一年生の韓国語クラスが五月祭に店を出す準備のため、ひとりの男子学生(吉村)の下宿に男女十名ほどが集まっていた。
言い出したのは、真実(わたし)
料理は「焼肉ホットサンド」
女子
文科一類(法学部)
井ノ原香苗 高知の米農家 料理上手
橋口真実 神奈川 合格者最低点
文科二類(経済学部)
杏子 兵庫 両親が中学英語教師
文科三類(文学部、教育学部)
四条百合絵 都内名門女子高 テニスサークル
水嶋愛理 都内名門女子高 テニスサークル
男子
吉村 文科一類
八文字 料理上手
大友 42歳ミュージシャン妻子あり 料理上手
武田 メガネ男子 美術サークル
佐藤 メガネ男子
八文字君は百合絵に一目ぼれしてるようだ。
十人は二人ずつペアになって、焼肉ホットサンドを作る予行演習をした。
お嬢さんの百合絵と愛理が最後に残った。
男子にもてる二人に嫉妬していたのか、真実は腰が引けてる二人に調理を命令した。
百合絵に惚れている料理上手の八文字は心配で二人の調理を見に行った。
そのあとである。
「片面は、さすがに」というつぶやきを残して百年の恋が覚めたような顔をして戻ってきた。
真実ら田舎者三人女子は、これはどういうことか気になってしょうがない。
五月祭の当日、肉を焼いていた真実が閃いた!
いちおう東大です 結城真一郎
妻の紗耶香。主人公は東大卒。新居は東大の近く。仕事は順調。
妻と知り合ったころのエピソードがつづく。
付き合った元カレは全員東大生。
合コンでの紹介「いちおう東大です」というのは、防御本能の現れだと妻は言う。
超天才はまれにいるが、みんな必死で勉強しただけの世間知らずばかりだから、そんなに持ち上げないで、という防衛本能だ。というのが妻の考察だった。
そんな東大卒の自分を東大のレッテルから解放してくれる妻に安心していたのだが。
結婚して、妻の実家に行って、一族がみな東大か医学部だと知る。紗耶香も東大を受験して不合格だったことも知る。帰省するたびに祖父母や両親に散々なことを言われて、紗耶香は打ちひしがれていた。早慶大学だってすごいはずなのに。
そのとき、主人公は、紗耶香の異常な学歴コンプレックスに気づいた。
家に帰った紗耶香は、包丁を持って、目の前の東大へ向かった。
妻が何をしようとしているか気づいた主人公は・・・
テミスの逡巡 浅野皓生
東大生四人が運営するウェブメディア「UTディスカバー」の橋部は、外科医の伊田智にインタビューをし、記事にすると、なかなか好評だった。
東大生四人が運営するウェブメディア「UTディスカバー」
田尻 発起人 校正と全体統括
橋部 記事の執筆(主人公)
村瀬 記事の執筆
宇都宮 SNS、HPの管理
そんな伊田のいい記事を公開した1週間後、「UTディスカバー」宛に封筒が送られてきた。
「伊田智ハ青葉里美ヲ殺シタ人殺しダ。記事ヲ即刻削除セヨ」
そしてこれと同様の怪文が、伊田外科医にも届いた。
伊田外科医が言うには、遺族の逆恨みだという。
その説明にあまり納得していない主人公は、伊田外科医の前職である弁護士として勤めていた山神法律事務所を取材した。
取材相手の倉本節子さんからは、驚きの話が語られた。
伊田外科医は倉本さんの娘である樹里さんと結婚していたが、丸山という男に殺されたという。
しかも猟奇的殺人である。”
このとき、丸山を重い罪にできず、弁護士の限界を知った伊田は医者になったという。
ところが、今度は妻を殺し刑期を終え釈放された丸山に刺された女性が、自分の病院へ搬送され、伊田が手術することになるという不思議な運命が待ち受けていた。
果たして、伊田は手術に成功するのだろうか?
人助けのためには弁護士では限界があると悟り、医者になった伊田であったが、憎い丸山が刺した女性を前にして、不思議な行動に出たのである。
人の命と恨みを天秤に掛けるこの伊田の心情をあなたは理解できるだろうか。
〆