はじめに
濱地健三郎の幽(かくれ)たる事件簿 と読む。
幽霊の幽をかくれると読むらしい。ということは、幽霊とは「かくれたる霊魂」なのか。
有栖川有栖という名はよく聞くけれど、その作品はおそらく短編をひとつ読んだ程度である。
だが、まあまあ読みやすい文体。
人物設定としては、霊能力がある探偵事務所の濱地健三郎、そして二十代の助手の志摩ユリエ。
なんと、志摩ユリエも霊能力を身に付けつつある。恋人の男はユリエと健三郎のことが気になる。
仕事も危なそうだと思っているが、そうなればなるほど、女はスリルを求める。
依頼者が来ると、所長が差出す名刺には、「心霊探偵」と記されている。オールバックで年齢不詳。
では、短編七編のあらすじをお話しします。ネタバレの手前あたりまで。
あらすじ
ホームに佇む
悲しくも可笑しいお話である。
そして最後は、ほっこりとさせられた。
探偵の濱地健三郎には霊感能力がある。そして助手の志摩ユリエにも少しある。
駅のホームに佇む少年。広島カープの帽子をかぶり、いつも出張の新幹線で通過する依頼者を見つめている。幽霊なのか、なぜ自分にすがるのか。依頼者は不安でたまらなかった。
バーで偶然聞いた「幽霊探偵」のうわさを聞きつけて相談に来たのだ。
濱地健三郎は、依頼者の話を聞いて、助手のユリエに最近の少年の志望事故を調べるよう指示した。
すると、死亡事故ではないが、ある子供が階段から転落して意識不明になる事件があったと分かった。濱地健三郎はさっそく助手のユリエを連れて、駅のホームへ向かった。
姉は何処
里山ののどかな集落の実家に姉はひとりで住んでいた。弟の自分とは二歳ちがい。
震度5の地震があり、姉が飼っていた猫のゴンが居なくなった。心配する姉に、すぐ戻ってくるよ、と言ったのだが4日ほど経ってもゴンは戻らなかった。
姉を元気づけようと、手土産を持って実家に行くと、姉の姿が無い。しばらく待っているとゴンが現れた。喜んで姉に連絡したが携帯は通じない。翌日に警察へ届けを出すも30代の大人の失踪には警察も身が入らない。
しばらく実家に滞在して姉を探した。すると、ある夜、姉の幽霊を見る。その幽霊が移動して途中で消える。これが繰り返された。姉の幽霊が消えた先には、姉のことを変な目で見ていた堀田という独身男の家があるはずだった。弟はまさかのことを妄想した。もしや姉はその堀田という男に殺されているのではないか。
だが、警察に幽霊の話をしても取り合ってくれないだろう。そうだクライアントの営業マンとの雑談で、心霊探偵の話を思い出したのである。さっそく電話して会うことになった。
喫茶店で探偵の濱地健三郎と助手のユリエと面会し、驚いた。ユリエが姉とそっくりだったのである。
さて、濱地健三郎は、依頼者が姉の幽霊を見た周辺で現場検証をし、周辺の家へ聞き込みを行う。堀田のほかに、親娘が100メートル離れた家に住んでいたので、その家を訪ねると・・・
饒舌な依頼人
これは、少々ややこしいので、粗筋書き難し。
アシスタントの志摩ユリエが寝坊する。急いで会社へ行く途中、男にぶつかりそうになった。
会社へ着いて、窓から外を見ると、その男が探偵事務所に入ろうかと迷っていた。
入ってきた依頼者は、乃木優。とにかく話を聞いてほしいというので、ひとまず聞くことにした。
田中という友人から会いたいと電話あり。電話を受けたのは佐藤。依頼者の話ではない?
佐藤が約束の居酒屋に付くと、田中はすでに来ていた。学生時代の借りを今日飲み代で払うという。さらにそれより聞いてほしい話があるとも言う。
田中と言う男は不動産鑑定士をしていて、遠方まで物件を見に行くことがあるという。
遅くなってタクシーを使った。「N駅前のビジネスホテルへ」
タクシーの運転手と話し込むうちに、「こういう稼業をしていると怖いことにも合う」と言うので、田中は突っ込んで聞いてみた。
すると定番の「長い髪の女の幽霊」を乗せた話だった。彼女を捨てた男の写真を見せて「この人を乗せたことはありませんか」と聞くらしい。運転手が「いいえ」と答えると重い空気になった。
女が言う家の前に到着して、ルームミラーを見ると、女の姿が無い!
すると、玄関のドアが開いて中年女性が出てきた。「どうしました?」と聞かれて、今あったことを話すと、「それは失恋自殺したうちの娘です。」という話だった。
運転手は、ありきたりな話で退屈だったでしょう、と言うので、適当に返事をしていたが、なかなかN駅前のビジネスホテルに着かないことに気づいた。
そして運転手の態度が急変した。
浴槽の花婿
古東美真 49歳
古東法之 65歳 美真の夫 死去
古東要介 64歳 法之の弟 ギャンブル好きで、美真が兄の法之を殺したと思ってしつこく電話で自首を勧めてくる
アシスタントの志摩ユリエは、所長の濱地が九州出張で暇なので、仕事帰りに彼氏の進藤叡二と食事の約束をした。進藤叡二は大学の漫画研究会の1年後輩で漫画原作者だ。
そのデートで入ったカフェの奥の席に、顔見知りの刑事がいた。
彼と対面している男は、後から聞くと古東要介という名で、風呂場で溺死した兄は嫁に殺されたと警察に訴えているという。だが、霊能力があるユリエはその古東要介の後ろに要介をにらむ男の顔を見たため、古東要介を容疑者だと思っていたが、刑事から被害者遺族だと聞いて驚いた。
さて、どちらが正しいのか。遺産目当てで古東法之を殺害したのは、七か月前に結婚した16歳も年下の美真なのか、ギャンブルの借金を返したい弟なのか。
刑事が別々に二人を呼び出して、心霊探偵の濱地健三郎が彼らに憑いている霊の表情を読んだ。
真美には霊は付いておらず、弟の要介には法之の霊がついており、激しく罵っていた。
そして所長はその霊の口パクから台詞を読み取ってしまった。
その内容は、全くの想定外なものであった。
お家がどんどん遠くなる
依頼者は、高遠瑛美さん。28歳 両親と兄 実家の料亭で経理担当
相談内容は、眠ると幽体離脱してしまうこと。
聞けば、彼女は幽体離脱すると、どこか遠くの決まった方向に飛ばされているらしい。
その方向を聞くが、その力に抵抗するので方向が分からなくなると言う。
判断材料が少なくて、さすがの濱地健三郎にも分からない。
今夜、幽体離脱したときに、目を開けてどこへ向かっているか身を任せてほしいと依頼した。
そして彼女は頑張った。方向だけでなく、ある家の形や外壁の色まで特定してみせた。
だが、これが危険な賭けだった。一睡もしていない彼女は、もう今夜は持たない。しかも早く眠りに落ちてしまいそうだ。そうなったら彼女の魂はもう肉体には戻れないと分かっていた。
ミステリー研究会の幽霊
私立理秀院高校のミステリー研究会の氷川華穂会長、菊井亞美子、大下啓斗(ひろと)
顧問の柏悠馬(ユーマ)先生、新入部員の床呂章(トコロ・ショウ)
校舎の二階の一番奥にようやく割り当てられた部室は以前は占い研究会が使っていたが、毎日怪奇現象が起こるので、ノートに記録している。新入部員の床呂章君はミステリー好きで、この部室の謎を解きたいと思っている。
ところが、この床呂章(トコロ・ショウ)という名の侵入部員が入部してから、怪奇現象がレベルアップしたのである。
うしろから髪を引かれるとか、押し倒されるとか、足首を掴まれて動けなくなるとか。
顧問の先生が、心霊探偵を頼ったことは言うまでもない。
そして、生徒がいない土日に調査し、原因と解決方法を掴んだのである。
それは叫ぶ
依頼人は、可児篠子(かにしのこ)、夫の佳喜が尋常ではない状態だという。
連絡をもらった翌日、東京から新幹線、地方私鉄、タクシーと乗り継いで三時間半、現地に到着した。
佳喜はある夜、突然何者かに憑りつかれた。幽霊の屑。化け物だ。
依頼人は地元でも有名な拝み屋の蓬莱政江に依頼して祈祷してもらっていたが、一向に祓えないという。
そこで濱地健三郎に依頼がきたというわけである。
正常な時間と発作が起こる時間があり、武器があれば自殺しようとするらしい。
書籍情報
・形式 単行本
・出版社 株式会社KADOKAWA
・ページ数 304頁
・著者 有栖川有栖
・発行 2020年5月2日
・分類 短編ミステリー
著者情報
1959年生まれ。大阪府出身。同志社大学法学部卒。89年『月光ゲーム』で作家デビュー。書店勤務を続けながら創作活動を行い、94年作家専業となる。2003年『マレー鉄道の謎』で第56回日本推理作家協会賞、08年『女王国の城』で第8回本格ミステリ大賞を受賞。推理作家・有栖川有栖と犯罪学者・火村英生のコンビが活躍する「火村英生(作家アリス)シリーズ」は、開始後28年となる今も人気を誇り、18年に第3回吉川英治文庫賞を受賞。他の作品に『カナダ金貨の謎』『こうして誰もいなくなった』『狩人の悪夢』『濱地健三郎の霊なる事件簿』など(本書の情報から)
〆