MENU
ホーム » 書評 » ミステリー » 街の灯 北村薫 大正から昭和初期にかけての華族、士族の方々の衣食住が描かれ、お嬢様たちが好奇心に満ちていたあのころがなぜか愛おしい 
a
この記事の目次

街の灯 北村薫 大正から昭和初期にかけての華族、士族の方々の衣食住が描かれ、お嬢様たちが好奇心に満ちていたあのころがなぜか愛おしい 

目次

虚栄の市

花村英子は、麹町に邸を持つ士族の娘である。

大名華族は、公債や優良株を持っていて、おうちそのものが、一つの会社のようなもの、というご説明は割と分かり易い。

今日英子は、有川伯爵のお宅の雛の宴に招かれ、運転手の園田が運転する自家用車で、有川家へ向かっている。

英子の級友、有川八重子とは、少し前から仲良くなった。

有川家に到着すると、桐原侯爵家の道子さんが先着したところである。

宴で聞いた「ヴァニティ・フェア」なる言葉が気になり、帰宅して兄に聞くと、家の図書室にサッカレーが書いた「虚栄の市」があるという。ヴァニティ・フェアは和訳すると「虚栄の市」になるらしい。

この小説は、工業が発展した西洋の表と裏を描き、ヒーローなき小説と呼ばれた。この大長編のヒロインは、レベッカ・シャープなる女性だったので、英子は読んでみようかという気になった。

そして、裕福とは行かなかったが、この女性の生き方が英子の心に残ったようである。

さて、話は変わり、長年正運転手を務めた山崎が辞めることになったという。その代わりに園田が正運転手になる。

そして、英子付きの運転手が居なくなるので、二十歳そこそこの女性の「別宮さん」がその役を引き受けることになったが、園田は女性が自分の職場に進出してくるのが嫌らしい。

そんなこんなで、別宮さんは、英子にベッキーさんと呼ばれる運転手となったが、めっぽう腕が立つ。

五月の新聞に「奇怪、自らを埋葬せる男」という記事がでた。新聞好きの英子は、車の中で新聞に書いてあったこの事件のことを話し、自分の推理を自慢げにベッキーさんに話していい気分になるのだった。

戸塚町でも変死事件がおきて、この二つの事件が関係していると推理したのであった。

英子は、検事である叔父にこの推理を話し、関心される。でも、ヒントとなる江戸川乱歩の「屋根裏の散歩者」を英子に手渡したのは、ベッキーさんであった。

銀座八丁

銀座の新名所は、七階建てビルの服部時計店の屋上である。

英子が、兄の雅吉に、ある本の「百十六ページ、三行目、上から十七番目の文字は?」と聞く。

いま、学校で流行ってる「暗号文」ごっこらしい。

あれ、この話は最近のドラマでも見たぞ! なんだったかな・・・

そうだ! 菅田将暉主演の「ミステリと言う勿れ」で、女優の門脇麦さんが使っていた「自省録」と同じじゃないか!

そうか、このやり方はすでに北村先生の手によって書かれていたのか。おそらくこのような暗号文の鍵については、さらにもっと前から周知のことだろうとは予想される。

英子は兄と二人で、父のはからいで、普通の人は入れない服部時計店のビルの屋上にある時計塔の内側を見せてもらい、ベッキーさんにそれを話すと、時計塔は屋上の隅に寄せられて建っているので、下の道路からは四面のうち三面しかみえないので、後ろの一面がどうなってるか見てみたい、などど常人は思いつかないようなことをいうので、英子お嬢様はびっくりするのである。

音楽ではジャズなるものが流行っていると兄がいう。

ジャズだ、ダンスだと夢中になっている、由里岡なる人物がいるという。

兄が聞く。桐原麗子を知っているか。知っているどころではない。

このあとの説明が大したものであった。同級生のお姉さまではあるが、伯爵家御令嬢にして、はっとするほど美しい。すでに上級生の偶像であるとのこと。いずれ宮家に嫁がれてプリンセスになると言われている方である。

英子はある日、同級生の桐島道子を通して姉の麗子さまからのお手紙を貰う。誰もが憧れるあのひとから手紙を貰うとは。。。

放課後に音楽室へ来てほしいと書かれており、恐れながら出向くと、帰りの車に乗せてほしいとのこと。断る選択肢はなかった。

花村家のフォードに乗り込んだ麗子さまは、英子ではなく、ベッキーさんに話しかけ続けた。そうか、お目当ては珍しくて学校でも話題になっていた女性運転手だったのだ。

長い正門を通って、内玄関に到着すると、麗子さまの兄がちょうどタクシーから降りたところであった。麗子さまは兄を紹介した。

若いのに参謀となった桐島勝久大尉は、ベッキーさんに興味を持たれたようだ。ここで勝久はとんでもないことを言う。

放たれた言葉は、「男装の麗人を気取っているのか?」「上着を脱いでみろ」

あまりの言葉に、英子が嚙みついた。

「侯爵家の方であろうが、参謀本部の方であろうが、あなた様の命令に従わねばならぬ、いわれはございませんっ」

面白いことになってきました。なんか、役者が揃ったといいましょうか。

これを歌舞伎の芝居の台詞で返した点について、ベッキーさんもあとから「お見事だと思いました。」と自分の危機も大したことはなかったかのように言うところが、またかっこいいではありませんか。うちの運転手にしたいくらいだ。

桐島勝久大尉が放った言葉の真意は、このあと桐島家に食事に呼ばれて明らかになった。

英子は、帰りのフォードの中で、兄が友人から挑まれている謎解きの話題をベッキーさんに話した。

おお、そうか、ここに謎解きのネタがあった。きっとベッキーさんが英子の兄の代わりに解いてみせるのだな、と思った。

ベッキーさんは、関係のない言い訳を考えて、夜の銀座にでかけるのである。英子お嬢様が謎解きをし易いように、ロケハンするようなものか。

そのあとは、英子がベッキーさんを伴って、銀座へ出かけ、謎解きの推理をする。

ベッキーさんのフォローがあるとはいえ、英子は自分で考えて答えを導き出しすところは、なかなかのものである。

街の灯

さて、時代は進み、映画も無声映画からトーキーに取って代わられそうだ。

チャップリンの「街の灯」などがトーキーだったならと思う兄の雅吉である。

「街の灯」は、眼の見えない少女のために、貧乏紳士のチャップリンが悪戦苦闘して手術費を稼ぐという、笑いと涙の物語。

夏休みになって、軽井沢へ行くのだが、今回は開通したばかりの電車を使って後悔しているようである。

花村家の別荘の隣の隣は、桐原侯爵家の別荘地で二万坪とも言われているから、語るだけこちらがみじめになりそうである。

軽井沢にきて、翌々日には、馬に乗った道子さんと待ち合わせていた由里岡子爵家の光輔様に遭遇してしまう。

道子の寵愛する暴れ馬に試乗した光輔様は、十メートルも行ったところで、振り落とされて怪我をしてしまった。

いろいろあって(省略)、検事の叔父夫婦も別荘にやってきて、ひといきついたころに、馬のひづめの音が近づいてきた。

愛馬に乗ったままの道子さんから、道子さんの婚約者である瓜生豹太氏の映写会に、検事の叔父ととも来てほしいと誘われた。

豹太氏の別荘に着くと、すぐに映写会は始まり、自然の映像が静かに流れた。

ところが、ある映像のところで突然、蛇の画像が流れると同時に、大きな銅鑼が鳴った。

女性たちは悲鳴を上げた。そしてひとり悶絶していたのは、家庭教師の井関さんであった。

すぐに病院へ運ばれたが、絶命していたようだ。なぜ、こんなおふざけをしてしまったのかと問われ、由里岡氏は道子さまがびっくりする姿を見たかったのだという。道子さまの愛馬から振り落とされたことの腹いせにでもしようとしたのか。

さて、ここからやな、と思った。さも偶然死者が出たかのごとく話がすすんでいるが、である。

そして、またもや英子はなかなかの推理を披露するが、ベッキーさんはその推理は完璧ではないという。

ついに、ベッキーさんは英子にヒントを出す。すぐに英子は真相に辿り着いた。

英子が、級友の道子を誘って、信州の鬼押出しへ行く。

このとき、道子の結婚観のようなものを聞かされる。

引用:チャップリンの「街の灯」って、ご覧になった。ええ。最後のところで、眼の治ったバージニア・チェリルが、花屋さんにいるでしょう。すると、彼女のために一所懸命になって、治療のお金を工面したチャップリンが通りかかる。ぼろぼろに落ちぶれ果ててね。バージニアは目が見えなかったから、自分を救ってくれたのはお金持ちの青年紳士だと思っている。彼女は、チャップリンの姿を見て笑う。そして、お金を恵んでやろうとして、手を取る。そこで握った掌の感触から、この男が実は、自分を救ってくれた人だと気づく。そうだったわね。でも、そこを観た時、(中略)わたしは、真相に気づいたバージニアの顔に、ただ、いいようのない嫌悪と憎しみの色が浮かぶのを見た。

このあと、道子は映画を見直し、バージニアには、そんな振る舞いや様子はなかったと話し、

「要するに、わたしは、わたしの心を見ていたのね。(中略)わたしが会えるのは全て駄馬なの。・・・千里を行く馬から見れば、わたしのほうがただの駄馬なのよ」

裕福な家に生まれた者たちには、貧乏の中に突き進む勇気などありはしないのだ、と思った。

街の灯 (文春文庫) [ 北村 薫 ]

 

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

ソフトウェア会社サラリーマン。書店や図書館で見つけた本の読書録を残したいと考えブログに書いています。ミステリー、時代小説、資格維持のための教養本などジャンルを問わずに読んでいます。読書録に加えてちょっとしたアイデアなども書けたらと思います。

コメントがあればどうぞ

コメントする

目次
閉じる