この記事では、直木賞作家・山本文緒さんの小説『自転しながら公転する』について、
・序盤〜中盤のあらすじ
・後半の展開
・読後の考察
をまとめています。
終盤からのネタバレ部分は伏せていますので、未読の方も安心して読めます。
作品の基本情報
・著者 山本文緒
・出版社 新潮社
・ジャンル 恋愛文学
・受賞 第27回島清恋愛文学賞、第16回中央公論文芸賞
どんな読者に刺さるか
・恋愛小説が好きな人
・仕事、結婚、家族、親、友人など人生に悩む人
序盤〜中盤のあらすじ
・物語の軸となる出来事プロローグで女性が結婚することが描かれ、そのあと、それまでのいきさつが描かれる。主人公は、茨城の牛久大仏が見えるアウトレットモールで働く 『与野都(よのみやこ)』 である。都はそのアウトレットモールにあるアパレルショップで働いている。
さて、みやこはあるとき本社の女性とモール内の回転すし屋で食事をすることになり、態度の悪い店員にクレームをつけた。しばらくして台風の影響で仕事を上がったとき、車のエンジンがかからず、駐車場に取り残された。自宅の父に電話しても繋がらない。打つ手なしで半泣きのみやこの横を自転車に乗った、あの回転寿司屋の男が通った。
みやこを見てその男が声をかけてきて、友人を呼んで車のバッテリーを復活させてくれた。それから二人は合うようになり、つきあうのだが、結婚という文字は見えてこない。その男の名は 『羽島貫一』 で、『金色夜叉』の『貫一おみや』のようだ。貫一は中卒で寿司屋の息子。
と、落ちが付いたところで、病弱の母はみやこの味方だが、父は古い価値観を持つ。学歴も無く将来不安な男に娘はやれないと思っている。
だが、彼の存在が両親にもバレて、家に連れて来るよう言われる。彼が中卒で、モールの寿司屋が閉店になり無職となったことは親は知らない。いっしょにいて楽しいけれど、態度を明確にしない貫一にみやこも将来について悩みはじめた。
そんなとき、貫一の友人のベトナム人からアプローチを受け、都の心は揺れはじめる。
ついに貫一がみやこの家を訪問したが、案の定父は貫一が中卒で無職であることを責める。興奮して倒れ救急搬送されてしまう。それでも父が退院すると何事も無かったような日常には戻るが、何かが変わっていた。
また普通に貫一のアパートで泊まるみやこだったが、高額なプレゼントに怒りが爆発して貫一と喧嘩になってしまう。そんなとき、金持ちのベトナムのニャン君から、また東京でデートしようというLINEが入って気持ちが揺れる。
一方、自分の仕事場でも異変が起きつつあった。バイトの子らは、店長と本社の上司が出来ているとか、仕事の指示がきつくなってもう一斉に辞めるなどと相談され、派遣の都は仰天する。しかし店長へ直談判すると、放心状態の店長が涙を見せた。
どうなる!どうする?みやこ!
さて、場面は変わり、友人の絵里とそよかの三人で家飲みである。みやこは自分の状況を二人に話し、忌憚のない意見を乞えば、絵里とそよかの意見は真っ向からぶつかった。聞いたみやこが困惑するほどの議論好きだったのだ。友情に影響はない。
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※ここから先はネタバレを含みます
未読の方はご注意ください
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終盤〜結末の要点まとめ
終盤の展開
貫一の親族の急病で、ふたりは車で移動するが、速度違反で貫一は逮捕される。そして無免許が発覚する。都も共犯を疑われ長時間尋問された。愛想が尽きた都は、貫一の連絡先を削除し、LINEもブロックした。 その後、女友達と愚痴を言い合う日々が続くが、テレビの災害報道に映るボランティアが貫一を想起させ、都の心は揺れる。忘れたはずだったのに。
結末の概要
何を考えたのか、いや貫一のことが分かりたくて、西日本の災害ボランティアに申し込んでしまう。トイレが使えない、だから水も飲めない、だから熱中症で倒れる、そして顔に怪我をする、という悪循環で他のボランティアに迷惑を掛けてしまう。その日にボランティア継続を断られ、東京駅へ舞い戻った。都は貫一に会いたかった。風の噂で聞いていた貫一が働く寿司屋へ行った。貫一と目が合う。会話しないふたり。
考察・解釈・読後感、総評
エピローグで、全ての読者が騙された、と思ったのではないでしょうか。2040年って、SFだったのか!
若者世代の考え方と親世代の考え方は、いつの時代もその構図(ギャップ)は変わらないのだと教えてくれているようで、結婚前に言う「必ず幸せにします」という台詞は、別の言葉に変えた方がいいんじゃないかと、考えさせられてしまう物語でした。
以下のことを考えさせられる小説だ。かっこ内は感想。
・結婚とは何か・・・幸せになれるとは限らないけどしたいもの。心の拠り所。(なのか)
・仕事とは何か・・・自分の好きなことだけでは成り立たない。経験を積まないと見えてこない。
・幸せとは何か・・・それを決めるものは人それぞれ:金銭的余裕・一緒にいたいかなど。
・親とは何か・・・親は自分では選べない。世代の考え方のギャップはいつの時代もある。
・友達とは何か・・・『母の回想』昔は友達はいたが、結婚したら優先度が下がり、みんなそうだと思っていた。友達とは何なのかも分からなくなってきた。P140
印象に残ったシーン(長文は短縮しています)
P8 エピローグ お洒落や化粧もせず、こういうところで働いて、食べたい。日本はちょっとでもしくじったら揚げ足取りする。顔だけは笑っている狭量な人たちに囲まれて生活することに何も疑問を抱かなかった。(自分の結婚式の)参列者は少ない。日本の友人は誰も呼ばなかったので・・・
P20 アウトレットの中のレストランなんてこんなものよ・・・(みやこが態度の悪い貫一に注意したときの上司の台詞)
P104 未来のない男に溺れて時間の無駄遣いをするな(都の父、母の看病のために実家に戻って来たのに、着飾ってたまに外泊してくるようになった娘に言った言葉)
P105 家にいるのがいやで仕方がなかった。母は病気だが母のせいではない。
P149 アウトレットでなんかで働いて。仕事なんか、辞めてしまえばいいのに。稼ぎのいい男を捕まえて養わせればいいんだ。で、若くて健康なうちに子供を産まないと。産まないと幸せになれないだろう。(都の父が母の桃枝に言った台詞)
P170 貫一は親の面倒だけでなく、災害ボランティアへ行って他人のために働いている。都自身はまわりの人に細かく気を使っているつもりだった。いざ家族が病気になると、自分の時間を差し出して面倒を見ることが嫌で仕方がなかった。(自分の薄情さに自己嫌悪する都)
P332 桃枝は生活費の管理をしていたが、貯蓄や保険やローンの支払いは夫に任せていて、その内情を知って、夫に引っ越したいだのいろいろ自分が圧力を掛けていたことに気づいて愕然とした。(みやこの母桃枝が、夫が倒れたときにようやく気付いたこと)
読者への一言
この『自転しながら公転する』は、最後まで読んで、プロローグを読み返して状況が納得できます。エピローグでこの小説の厚みがぐっと増しますから、是非、プロローグ、本章、エピローグの順でお読みすることをおすすめします。 人生や幸福について悩んでいる読者に特におすすめの一冊でした。恋愛小説ですが、人生小説だと思います。
タイトルは自転(自分の力)だけではその軌道(人生)は成り立たず公転(他人)の影響を受けるものだ(から、その中で生きていこう)ということを意味しているのだと解釈しました。ネタバレ部分(終盤とエピローグを除く)も含めて、あなたの読書体験の参考になれば嬉しいです。
〆
