悪い女 ~暴走弁護士~ 麻野涼

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目次

まえがき

冬の川崎市の埋め立て地の扇島の西側にある「W公園」近くの立ち入り禁止の埠頭で、男が海に落ちたとの通報があり、警察のパトカー三台と救急車が急行した。暴走弁護士が弁護依頼された!

久しぶりに電子ブックで読んでみました。登場人物は多すぎて半分ほど省略します。
また、感想の部分は「緑色」になっています。あらすじですが、最後のネタバレはナシです。

登場人物

・大鷹明日香、寿美夫の妻、女子少年院卒、三十代前半、キャバクラ、ソープで勤務
・大鷹寿美夫、歌舞伎町にある指定暴力団の組員、四十歳、傷害罪・窃盗・覚せい剤取締法違反で服役
・真行寺悟、黎明探偵事務所の所長
・三枝豊子、黎明探偵事務所の事務員
・小宮玲子、大田区動物愛護センターのボランティア、福祉関係の大学生
・宮本、大田区動物愛護センターの職員(運転手)
・大泉刑事、川崎臨港警察署、五十代
・野沢女性刑事、川崎臨港警察署、三十代後半
・野村悦子、愛乃斗羅武琉興信所代表、レディース紅蠍初代総長、慶応大法学部卒
ほか多数。

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あらすじ(感想含む)

プロローグ 夜釣り

結局、翌朝に東京湾を浮遊する大鷹寿美夫が遺体で発見された。

その結果、妻の明日香が疑われ、再三の事情聴取が行われた。

家宅捜査も行われるが、犯罪者と決まったわけでもない一般人(そうでもないか。。。)の家をひっくり返して、そのまま立ち去るといのは、いかがなものか。

本書ではそう書いてあるが、実際はどうなのか知りたいところだ。(令状があれば許容されるとは思いたくない。あなたもわたしも、いつこのようなことに巻き込まれてもおかしくないし、ほんとうなら腹立たしい。片づけても二回目の家宅捜査などあれば、もう憤りしかないだろう。)

1.弁護依頼

警察のやり方は分かっている大鷹明日香は、「黎明法律事務所」の元暴走族紅蠍の総長だった真行寺悟を訪ねて、警察に逮捕された場合の弁護を依頼した。
稼ぎもないチンピラの夫だったので、いつかヤクザに殺されると考えて、五千万の生命保険に加入していたので、保険金殺人の容疑者として逮捕されると想定して来たのである。

翌日、大鷹明日香は覚せい剤取締法違反の疑いで逮捕された。
別件で逮捕して、(拷問に近い長時間の取り調べで)自供させるというやり方は、もう禁止にしてもらいたい。

真行寺が面会に行くと、飼い猫のフレディーの世話を、大田区動物愛護センターの小宮礼子にお願いしてくれという。意外とまともな人間のようである。

2.司法解剖

逮捕された大鷹明日香は、前半の優しい取り調べを問題なく乗り切った。
途中、覚せい剤の検査結果もシロと出て、大泉刑事による取り調べは終了し、午後からは篠原という態度の悪い刑事が取り調べ担当となった。

3.殺人容疑

篠原刑事は、たまに机を両手でたたくなどの恫喝はするものの、思ったより家宅捜査で出た証拠を示して、少しずつ追い込んでくる。

自宅の浴槽からは、釣り場と成分が一致する海水が検出され、死んだ夫の胃からは、いつも使っている入浴剤が検出されたという。

これは、「まずい」と、素人でも分かる。海で死んだはずなのに、入浴剤が検出されたら答えはひとつ。

弁護が難しいと感じた真行寺は、愛乃斗羅武琉興信所代表の野村悦子をレストラン・バーNossAに呼び出し、協力を求めた。

4.連続殺人

川崎臨港警察署に、捜査本部が設置され、事態はさらに深刻化した。
大鷹明日香が、保険金殺人容疑でも逮捕されたのである。

これは、タイトルどおり「大鷹明日香」が悪女のか、元レディース紅蠍総長で興信所代表の野村悦子が悪女なのか、分からなくってきた。

猛烈な警察の追い込みにも、大鷹明日香は耐えているようだが、あまりにも人権を無視したような取り調べが未だまかり通っているのではないかという思いがよぎる。

警察署での接見よりも、横浜拘置所に身柄が送検されてから真実を聞き出すしかないらしい。
不利にならないためには、送検されるまでも自白はしてはいけないということだが、眠らせないような取り調べは問題があるはずである。

ただ、真行寺にしてみれば、「殺人はやってない」と明言しない依頼主の弁護で勝つ作戦を立てるのは難しい。

殺人を否定しない明日香であったが、自分の生い立ちは話してくれた。
彼女の周りには、前科者しかいなかった。

5.疑念

裁判員裁判の制度は、世間知らずの裁判官の判決を補完するものらしい。
そんな世間知らずで法律しか頭に入っていない坊ちゃんとお嬢ちゃんに捌かれて冤罪となった人たちの無念を考えると、法律の知識だけで捌くというのは確かにナンセンスかなと思う。


それにしても、大鷹明日香は自分が置かれている状況を深刻に把握する能力もないらしく、死刑になったら、刑務所でTVは見られるのとか聞いている始末だ。

どうする真行寺!?

6.直感

真行寺は、裁判が始まるまでに、この大鷹明日香の答弁能力を向上させなければならない!
接見での話し合いが続く。

『未決囚は、拘置所周辺の差し入れ屋に注文すれば、食べたいものが食べられる』と書いてある。ほんとうなのか!でたらめなことは書かないだろうとも思えるので、ひとまず信じることにした。

そして、公判前整理手続きを開始する打合せが開かれ、物語形式の「証明予定事実記載書面」が送付されてきた。 ここまで記載された検察側が考えたストーリーが記載されている。

このままでは、殺人を自供した大鷹明日香の死刑は免れない状況となるも、本人はいたって平然としているところは違和感をぬぐえない。

7.公判前整理手続き

裁判の前にこのような三者(裁判官、検察官、弁護士)の会議が行われているとは知らなかった。
裁判の円滑な運営にはあった方がいいのかも知れないが、予め互い(検察側と弁護側)の手の内が分かってしまう。

テレビドラマなどで見るような駆け引きができるのだろうか?
あるいは、実際にはそんな駆け引きは無くて、淡々と裁判は進んで行くのだろうか。

このような、公判前整理手続きが何回も行われているために、裁判開始までに1年以上かかるということになるらしい。裁判を短縮するためには、この公判前整理手続きの短縮も必要らしい。


弁護人の真行寺悟は、大鷹明日香の情状酌量を訴えるための友人知人などの調査を、愛乃斗羅武琉興信所の野村悦子に調査を依頼した。

8.調査開始

川崎のソープでも働いていたという大鷹明日香の素性を調べるには、そのソープへ行くのが簡単であるが、野村悦子の愛乃斗羅武琉興信所は女性スタッフしかいない。

野村は、高齢者向けソープの「ハイソサエティ」の同僚だった高崎美由紀から話を聞くことが出来た。
男に臆病だった高崎美由紀を励ますために、ホストクラブにも連れて行ったらしい。

二人で三回行って、約三百万使ったという。
凡民には縁のない世界である。そんなに金を取るほどのサービスなのか、と思うのは凡民の証である。

次に、そのホストクラブに聞き込みをするのだが、そこは女性スタッフだけの愛乃斗羅武琉興信所の得意とするところ。
「ホストクラブというところは、美醜よりも金の匂いにつられてホストが客に群がってくる。」そうだ。失礼な話でもある。

慣れた女性スタッフは、まんまとマサトから情報を聞き出した。
遊び慣れている女性は怖い。。。

9.赤城女子少年院

真行寺悟は、大鷹明日香をよく調べるため、彼女が過去に二度も収監された赤城女子少年院の院長を訪ねた。

「女子少年院の塀の忍び返しが外に向けられている。」そうだ。理由は書かれていないが・・・。
痴漢の侵入防止が優るのか。


当時彼女が書いたノートの記述から、一部分の書き写しを許可された。
その後、真行寺はそこに書かれていた明日香の友人と会うことになった。

10.院卒

真行寺は、赤城女子少年院でいっしょだった大矢直子に会った。
彼女は、赤城時代に明日香が教官から守ってくれたと思っており、証言に協力するという。
どうやら、非行少女時代の明日香に恩義を感じているか悪く思っていない者が多いようだ。

それから、同じく赤城でいっしょだった中島真弓の母と残された高校生の真一と会い、二人から明日香について知っていることを聞き出した。

11.施設職員

真行寺悟は、明日香がいたM児童養護施設も訪ねた。

ここまでの記述を読んでいると、明日香のような犯罪者がどのように育つのか、あるいは児童養護施設とはどのようなところなのかを世間に知ってほしいのではないだろうか、と思うほど詳しい説明が、明日香という一人の女性の(架空ではあるが)具体例でもって示してくれているような気がした。
大人がこれを読んで、どう捉え、何を考え、行動するのか(できないのか)を委ねられているようでもある。


さて、M児童養護施設の小池淑子さんは、夫や子供たちが教職にあることもあって、明日香の当時の様子を証言するのを保留した。
無理もない。SNSで誹謗中傷されることは容易に想像された。

明日香がM児童養護施設の次に暮らすことになったN児童自立支援施設での様子の聞き込みについては、愛乃斗羅武琉興信所の野村悦子代表が担当した。

藤岡園長は、警察に供述したのと同様に、明日香の非業ぶりを伝えるばかりであったが、訪問から帰った野村悦子に園長室に案内してくれた石塚という男から電話が入り、事の真相を聞くことになった。彼の話によれば、明日香は悪人どころか、入園者達のヒーローだったのである。

12.争点

なぜ、大鷹明日香は、義理の父の死は、無理心中の結果であって保険金が目的ではないと言い続けるのだろうか。

大鷹明日香が所有していたテレビのレコーダーに国民的美少女コンテストで優勝した渋谷未希がインタビューのなかで飼育放棄された動物の保護者を探すボランティアに没頭していると答えている様子が記録されていた。

13.証人

真行寺と野村悦子は、芸能プロをまじえて、渋谷未希に会うことになった。

この小説で少しリアリティに欠けるとすれば、会いたい証人がすべて会うことを承諾してくれている点である。断られたときの窮地が描かれていない。このあたりのリアリティの味付けは著者の趣向次第ではあるが。

渋谷未希から聞いた話については、記されていない。

そして、大鷹明日香のアパートから引き揚げた家財道具を預けたコンテナを調べたが、小山田秀一との無理心中を裏付けるものは見つからない。

14.初公判

初公判は、検察側と弁護側の双方が、公判前整理手続きで確認した通りに始まったと言える。
検察側は余裕の体で休憩に入った。
午後からは、検察側の説明が始まった。

15.証人尋問

検察側の説明を聞くかぎりでは、1件目の事故について、あらかじめ大鷹明日香が小山田を自宅で殺害したと主張する凶器や痕跡は無いにもかかわらず、残っていた写真だけを検死医に渡して書かせたもののようであった。

そして、当時事故として処理をした警察官の証言のあと、大鷹明日香の同僚だった女性からはホストクラブに三回連れていってもらい、明日香が三百万円を支払ったという証言がなされた。

16.不審な溺死

三日目は、N児童自立支援施設の関係者が、大鷹明日香が当時の仲間に対して優しかったことなどを証言したが、それを聞いた明日香が暴れ出して、裁判員の印象はさらに悪くなった。

それに加えて、なんと明日香は、第一の事件の凶器があると暴露してしまった。これは、「秘密の暴露」に当たり、犯人しか知り得ないことと認定されれば、殺人罪は確定する。

17.弁護側証人

絶望的な状況で、四回目の公判が開かれた。
以下省略(ネタバレするため)

18.被告人質問

被告人、大鷹明日香への質問が行われた。
以下省略(ネタバレするため)

19.エピローグ 遠い抱擁

判決が言い渡された。
以下省略(ネタバレするため)

読み終えて

読み終えたとき、私の目も少し潤んでいたかも知れない。
この作品は、推理小説というよりは、火曜サスペンス劇場でした。

この作者の作風がすべてこのタイプであるかは分かりませんが、自分の好みとしては純粋な推理物やハッピーエンドの方であって、感動もの(結果としては本作品のように悲しいもの)ではありません。とはいえ、社会性のあるものも好きですから一概には言い切れません。

今回は、どうやって挽回するんだ!?という方に重点があり、たまにはハラハラドキドキするのもいいかと思いました。
別の視点で言えば、真犯人を突き止めるのではなく、真の動機を突き止めるものでした。裁判で挽回できたのかどうかは、実読ください。

サブタイトルの「暴走弁護士」は、裁判のときに何か大変なことをしでかすのかとも思われましたが、そういう事態にはならず、元暴走族という意味だったようです。少し分かりにくい気もするなあ。「元暴走族弁護士」では長すぎるのかな。。。

麻野涼さんのプロフィール

1950年埼玉県生まれ。早稲田大学卒業後、ブラジルへ移住。サンパウロで発行されている日系紙パウリスタ新聞(現ニッケイ新聞)勤務を経て、78年帰国。以後、フリーライター。高橋幸春のペンネームでノンフィクションを執筆。87年、『カリブ海の“楽園”』(潮出版)で第六回潮ノンフィクション賞、91年に『蒼氓の大地』(講談社)で第13回講談社ノンフィクション賞受賞。2000年に初の小説『天皇の船』(文藝春秋)を麻野涼のペンネームで上梓(「BOOK著者紹介情報」より)



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