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早柚(さゆ)は、会社を休職中の二十六歳。近くの海岸のゴミ拾いを始めた。 自分を見つめ直す、ひと月あまりの物語。

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『カプチーノ・コースト』 片瀬チヲル あらすじ 感想

目次

はじめに

夏も近づくGW前、装丁の海に惹かれて手に取った。
この物語は、会社を休職中の二十六歳の主人公、早柚(さゆ)が地元の海岸でゴミ拾いを始めることから始まります。彼女はふとしたことから海岸のゴミを拾い始め、自分自身を見つめ直すひと月の物語が描かれています。強風で波打ち際に現れるさまざまな成分に富んだ泡、波の花、そして浜辺に打ち上げられる多くの漂流物が物語の舞台。この小説は、人間の心の澱や時間の過ごし方について考えさせられる作品ですね。

さて、このタイプの本は、どの分類に入るのでしょうか?
ネットで調べると、「文芸」ということになるらしい。

それと、「カプチーノ」も調べた。
イタリアで好まれているコーヒーの飲み方のひとつで、陶器のコーヒーカップに注いだエスプレッソにクリーム状に泡立てた牛乳を加えたものをいう。

さらに、「カプチーノ・コースト」も調べた。
波の花。英語ではsea foam
海水が砕波により撹拌される時に波が空気を閉じ込め、表面張力によりお互いにくっついている分解しにくい泡を作る。この泡は密度が低く分解されにくいために、強い海風に吹かれて内陸へと流されることがある。俗にカプチーノコーストと呼ばれる。

登場人物

 さゆ(早柚) 主人公 
 カメ姉さん ビーチクリーンの二年先輩
 海辺で会う人々

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言葉

 ビーチクリーン 海岸を綺麗にすること
 ビーチコーミング 海岸に漂着した珍しいものを収集すること

あらすじ 感想

海をそうじされている方々がいるとは思っていましたが、ボランティアとしてビーチクリーンという名称があることは知りませんでした。
この主人公の早柚さんは、会社で何かあって、二ヶ月の休職されているとのことで、メンタル系かなと思いました。
早柚さんは、ビーチクリーンをしていると、会社での嫌なことも忘れられるようです。

拾ったゴミは、一般ごみとは違うらしく、普通に捨てられないようです。
拾ったゴミは、市役所に持って行くそうです。
でも、その市役所の人が嫌な顔をするというのは、いただけません。
むしろ、お礼を言うべきでしょう。

また、ビーチクリーンをしていると、いろんな男女が声を掛けてきます。
そんなことして意味あるの、とか言われると腹も立ちますが、もともと人間関係が嫌で会社を休んでボランティア活動をしているので言い返すこともありません。そんなこと言う奴には天罰が下ればいい。

ビーチコーミング(上の「言葉」のところ参照)の人たちとも知り合って、「拾ったものを見せながら、それぞれ自分が話したいことを好きに話すんだ」「読書感想文なんかもそうじゃないか。本の感想を話してるつもりが気づいたら自分の抱えていた悩みや過去の経験の話なんかをしてる。なんでもそうだよ。」という会話があった。
まあ、そのとおりです。この感想も自分の経験から頭に浮かんだことをベースに書いている感じですから。

別の日に、早柚さんが小学校時代の友人とビーチクリーンをしていると、海で遊んでいた親子連れが、砂浜にビニール袋を置いたまま去っていきます。虚しい。早柚さんはどう思っているのだろう。
そんなとき、ふと会社のことを思い出してしまうのです。ものを置き忘れた部下を叱責する上司のこととか。
パワハラを解決する手段は、その場から逃げることだった。

ある日、NPOが主催するビーチクリーンが開催された。
そこには、早柚さんのように自分を見つめ直すとか、静かに活動するのではなくて、にぎやかしいことが好きな人々が集まっていた。
結局、早柚さんは集団から離れてひとりでビーチクリーンをした。
そのあと、出会ったお兄さんが言った「最初はゴミ捨ててく奴や、海が汚れているのに気づかない奴らにムカついてたよ。でも、ムカついたところで海は綺麗にならない。ただ俺が気分悪くなるだけなんだよな」

その日、カメ姉さんがビーチクリーンをしていて、エイを踏んでしまった。毒針が刺さり、足から出血している。さっき出会ったお兄さんと知り合いの女性がタクシーを呼んで、早柚さんが同乗して病院へ向かった。幸い、カメ姉さんは大事なく、二人で遅い昼食を食べに行った。

・雨の後は、ゴミが多い
・流木はゴミではない
・長めでプラスチック製の軽いトングを使うと良い(疲れない)


また、小学校の同級生の灯里(あかり)ちゃんとビーチクリーンをした。
そして、コンビニのゴミ箱に流木がたくさん捨てられているのを目にした。
これって、やってもいいことですか。
流木はゴミではないし、コンビニに捨てることも間違っていると思います。
友人の灯里ちゃんは「うつくしい海の姿も、ひとそれぞれ・・・うちの部署でもそういうことよくある。イラッとはするけど、仕方ないよね」と言う。

休職期間もあと二日というときに、早柚さんはビーチクリーンに出かけます。
そして、会社の同僚が海岸でBBQしているところに出会ってしまいます。
向こうは気さくに声を掛けてきます。
「新しい仕事は何してんの?」 「わたし、まだ辞めてないです」
失礼極まりなく、無関心極まりない態度です。

挙句の果てに、BBQのゴミを気弱な早柚さんに押し付けて帰ってしまいます。
自分らで出したゴミは持ち帰らないといけないのに。
早柚さんが集めた「海洋ゴミ」とは一緒には捨てられないのです。。。
「ゴミはゴミでしょ」と言われても言い返せませんでした。

そして、とうとう職場復帰するも、リーダーからは、たくさんの記事をすぐ書くように指示されます。
久々に職場復帰する人に一片の優しさもないのでしょうか。現実はそうかもなあ。

仕事は、指示されたキーワードを使って、検索した他のメディアの記事をまとめて、SNSなどのユザーの声をそれらしくまとめ、広告リンクをつけて記事を公開すれば完成するらしい。
これのアフリエイトなどで収益をあげるインターネットでのマーケティング会社に勤務しているそうです。
ノルマがあって、1記事を2~3時間で仕上げないといけないらしい。
記事を公開するたびにまた一つ嘘をついた気分になるという。
私たちは、そんな記事をたくさん読まされているような気がします。

早柚さんが休職するまえに、上司が部下の人格を否定するかのような言葉を浴びせていたので、早柚さんがその上司に嚙みついたらしい。でも早柚さん訴えはみとめられず、悪いのはお前だ、などと言われたらしい。
そんな会社になぜ復職するのか、と思ってしまいます。

復帰した早柚さんにその庇ってもらったはずの部下が言ったのです。「先輩がハラスメントに耐えられないなら、自分で告発したらいいです。もう巻き込まないでください」 
これは、きついなあ。早柚さんが休職したのは誰のせいだと思ってるんだ!

そして、早柚さんはやはり海へ向かった。

・生活のために我慢することは正しいのか
・人のためにならない仕事をすることは正しいのか
・ハラスメントを告発することは正しいのか

を考えた。

わたしが勤務する会社では、ハラスメントに気づいたらすぐ窓口へと言われています。
早柚さんも面と向かって上司に歯向かわずにパワハラ窓口に匿名で訴えれば良かったのかも知れません。

それでも確かなことは、
・海に落ちているゴミを拾うことだけは、間違いなく正しい
と早柚さん思った。

わたしも、たまに釣りをすることがありますが、自分で出したゴミは必ず持って帰っています。魚は持って帰れないことが多いですが。。。
あらためてそのことを忘れないようにしようと思う。

やはり、『本の感想を話してるつもりが気づいたら自分の抱えていた悩みや過去の経験の話なんかをしてる。なんでもそうだよ。』というこの本の会話のとおりになってしまった。

片瀬チヲルさんのプロフィール

1990年、北海道生まれ。明治大学文学部卒業。大学在学中の2012年に「泡をたたき割る人魚は」が第55回群像新人文学賞優秀作に選ばれる。 著書に『泡をたたき割る人魚は』(講談社)(本書の紹介文より)


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