汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

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表紙のデザインが気になる。グレーのような中にピンクのバラの下には白く爪だけが赤い両足首が右手に乗っている。手と足の間には有刺鉄線があり、裏表紙にのびて黄色の小さな花になっている。

この五つの短編集に、このタイトルを付けたのは、どういう意味だろうか。

目次

1.ただ、運が悪かっただけ

襖を開け閉めするような音とは、鉋削りの音である。
は、一年前の55歳健康診断で、要精密検査となり、余命半年と言われ、まだ生きている。

義父が死んだときに、姑にひどいことを言われた。非常事態にこそ本性が出るというが、非常事態のときに出るのは非常事態の感情であって、それが人の本質や本音だと考えるのは早計だという意見には、半分賛成する。

妻は、夫にこの際だから、抱えている苦しいことは、あの世に持っていくから話しておいてと言う。夫が語り出した内容は、思いもかけないことだった。

「俺は昔、人を死なせたことがある」

工務店で働いていた夫は、よくクレームをつけてくる中西という男に手を焼いていた。
いいように使われるようになり、家の電球まで変えさせられる始末だった。

ふつうは、私は「殺人者の妻だったの!」と落ち込むはずの妻が、病床で夫を救う名推理を披露する。。。

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

2.埋め合わせ

小学校に限らないだろうが、先生はいろんなことで大変そうである。学校のプールの水をうっかり消失させてしまったら、個人賠償だという。
250万円の倍賞例をみて、ぞっとする。千葉先生はそれをやってしまったらしい。

千葉先生は、プール日誌に、「排水バルブ」のチェック項目があるのに、深く考えずに習慣で、〇(まる)をつけてしまったのである。

千葉先生は、正直に教頭に言いに行くが、タイミングのせいか、言いだし損ねて、隠ぺい工作を考えてしまう。

運の悪いことに、同僚の五木田先生に、隠ぺい工作の途中で見つかってしまう。

その五木田先生自身は、ギャンブルの競馬で30万円の借金ができて困っているという。

五木田に強請られるのではないかと、焦った千葉先生に、五木田先生はなんと隠ぺい工作を手伝ってくれるという。はたして、そんなうまい話があるのか。。。

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央
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3.忘却

武雄とその妻が住む、全八戸のアパートの住人が登場人物である。

隣の笹井さんが猛暑に「エアコン点けず」熱中症で孤独死した。

武雄の家には、なぜか笹井さん宛に来た送電停止警告のはがきがあった。
誤配達されたはがきを認知症の妻が笹井さんに返し忘れたらしい。

隣の笹井さんが熱中症で亡くなったのは、そのはがきを届けなかったからだと気づいた武雄は、そのはがきを捨てるために、コンビニへたばこを買いに行き、コンビニのごみ箱に捨てた。これで証拠隠滅のはずだった。

笹井さんの葬儀の後から、認知症の妻が「何か忘れていることがなかったかしら」とよく聞いてくるようになった。罪の意識か無意識か。。。

武雄は、エアコンの調子が悪くて、電気屋を呼んで修理してもらもらうと、意外なことが判明したのである。。。

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

4.お蔵入り

無名の映画監督の大崎の映画に、ベテラン俳優の岸野が出演してくれて、やっとクランクアップした。

だが、大崎はプロデューサーの森本から困った噂を耳にする。
もし、主演の岸野が薬物使用で逮捕されると、映画は公開中止になってしまうと。

監督の大崎、プロデューサーの森本、マネージャーの福島は、とある部屋で岸野を詰問した。
間違いだよと言ってくれるだろうと期待していた三人に対して、岸野はすまないと言った。主演の岸野は残念ながら薬物を使用していたのだ。

怒りが沸騰した大崎は、岸野を6階のベランダに追い詰める。
大崎は、はずみで岸野を突き落としてしまうが、三人は結託して相互にアリバイを証明し合うことにした。

すると、思いもかけないところから容疑者が浮かび上がる。共演の小島である。
犯行当時にその6階の部屋から小島の声を聞いたと証言する女性が現れたのである。

これで、大崎らは逮捕されないと喜ぶが。。。

女性の恨みは怖いという教訓か?
映画キャストの身辺調査はちゃんとしておけという教訓か?
大臣の身辺調査も。。。

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

5.ミモザ

握手会に、元カレが来て動揺する市川美紀子、みーこ。(旧姓荒井)。彼の名は瀬部庸平。

美紀子は趣味で書いていた料理ブログが話題になって、料理本を出版してベストセラーとなり、握手会を開催する。そこに元カレの瀬部がやってきたのである。

瀬部は、美紀子が学生の頃にアルバイトしていた会社の人で、当時は既婚者だった彼と付き合っていた。

自分も結婚して、もう瀬部のことは忘れたはずであった。。。

握手会でもらったものにメッセージが書いてあった。「向かいのバーで待つ」と。そして、行ってしまった。
バーで聞いたところ、瀬部は仕事を辞めて、仏師に師事しているという。
しかも、離婚したという。

すでに既婚者となった美紀子にどうしろというのか。
稼ぎも少ないので、30万円貸してほしいと言う。
かつての彼が惨めに見えた。

借用書を、何故か彼が持ち去ったことに気づいたときは、お金は返って来ないと思ったが、1か月後に連絡が来て、また同じバーで会うことになる。
彼から、旦那のことを聞かれて、買い過ぎて腐ったものを、こっそり捨てて食べたよと言ってくれる優しい夫だと答えた。

ここからが、ブラックな展開である。なんと彼は借金を返すどころか、さらなる借金を申し出てきた。拒む私に彼は言う。30万も元カレに貸していることが旦那にばれたらどうなるかなあ。。。

そんな恐喝のテクニックがあったか。と感心している場合ではない。読者は紀美子の味方である!

美紀子は元カレからの連絡を無視し続ける。
ある日、元カレが家のドアの前に立っていた。近所に見られてはいけないと、自宅に上げてしまう。もうすぐ旦那が帰宅する時間だ。。。

このあとの展開は、手に汗握るサスペンスドラマである。

何も悪いことをしていないはずの美紀子に起こった不幸な出来事なのである。
いつあなたに起こらないとも限らない。

稼ぐようになって有名になったら、油断大敵。。。

汚れた手をそこで拭かない 芦沢央

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