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ドヴォルザークに染まるころ 町田そのこ 読後感想など

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目次

第1話 ドヴォルザークの檻より

登場人物

鈴原類(るい):小学生の頃に衝撃的な出来事を目撃し、それが心に深く刻まれている主婦。現在は柳垣小学校に通う息子を持ち、町から出たことがない。夫は鈴原悟志、子は浩志

香坂玄(こうさか げん):類の一つ年下で、類と同じく過去の出来事を共有している人物。久しぶりに町へ戻ってくる。

群先生:類と香坂が小学生のときの担任教師。若い画家と教室で不貞行為をし、その後駆け落ちした。

あらすじ

24年前、類と香坂は放課後の教室で、担任の群先生が外から来た若い画家と性行為をしているのを目撃してしまう。その後、二人は駆け落ちし、類の心にはその記憶が「檻」のように残り続けていた。

現在、廃校が決まった柳垣小学校の最後の秋祭りの準備をしていた類のもとに、香坂が現れる。彼との再会を通じて、類は自分の人生の選択や、町に縛られてきた日々を見つめ直す最後の瞬間で終わる。彼女の選択は…という物語

第2話 いつかのあの子

東京で暮らす看護師・千沙(ちさ)が主人公の物語

登場人物

千沙:東京で看護師として働く女性。バツイチ子持ちの恋人・翔琉との関係に悩んでいる。

翔琉(かける):千沙の恋人。6年付き合っているが、関係は進展せず。

サチ:15歳の少女。千沙がかなた町へ連れて行く。

悟志:千沙が15年前に子どもを堕胎した相手。現在は類の夫。

あらすじ

千沙は、恋人との関係に行き詰まりを感じながら、過去の傷を抱えて生きている。15年前、悟志との間にできた子を堕胎したことが、今も心に影を落としている。そんな彼女が、サチという少女を連れて、かつての思い出が残る「かなた町」へ向かう。

町に戻った千沙は、過去と向き合いながら、自分の人生を見つめ直していく。サチとの交流を通じて、千沙の心に少しずつ変化が訪れる。

この話は、過去の選択が現在にどう影響するかを静かに描いていて、切ないが、どこか希望がある

サチの心情は、表面ではクールに見えても、内側には深い孤独と不安が渦巻いているようだ

千沙はもう子供を産めない。そういう選択を過去にしたのだということを確認するために「かなた町」に来た。

教室にあった古い卒業アルバムに書いてあった自分の未来を読み、かつての先生と話すうちに、千沙は自分自身を幸せにするために生きていこうと決意する。それは翔琉と別れることも意味するのか。

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第3話 クロコンドルの集落で

登場人物

田中佳代子:管理栄養士。夫との関係に悩み、義母の介護をしている。

義母:かつて柳垣小学校で教員をしていたが、現在は認知症を患っている。

:佳代子との関係は冷え切っており、セックスレス状態。

あらすじ

佳代子は、認知症の義母を介護しながら、夫との愛情のない日々に苦しんでいる。柳垣小学校の秋祭りを前に、義母に「夫との関係がうまくいっていない」と打ち明ける。意外なことに義母は、離婚することも認めるような話をしてくれて、佳代子は背中を押される気がした。

そのすぐあと、ある教え子から父が末期がんだから会ってほしいと言われ、義母は逡巡する。なんだ、あなたもそうだったのか、と今度は佳代子が義母の背中を押す。

物語の中で象徴的に登場するのが「クロコンドル」という鳥。

一生つがいを変えない鳥として描かれていて、主人公・佳代子が自分の結婚生活と重ねてしまう。

佳代子は夫との関係が冷え切っていて、愛情も感じられない。でも「一度選んだ相手と添い遂げるべき」という思い込みに縛られている。

クロコンドルの巣が焼ける描写(「ほら見て。クロコンドルの巣が焼けてます。だから、大丈夫。行きましょう」)は、その縛りからの解放を象徴しているようである。

つまり、クロコンドルは「理想の夫婦像」や「一度決めたら変えてはいけない」という思い込みの象徴で、それが焼け落ちることで、佳代子は自分の人生を見つめ直すきっかけをつかんだのだということを表しているようだ。

第4話「サンクチュアリの終わりの日

柳垣小学校に通う小学6年生・麦(むぎ)の視点で描かれる

登場人物

:柳垣小学校に通う小学6年生。両親が離婚していて、母に引き取られ、今月末に千葉県へ転校する予定。

:志方智美 離婚後、麦を迎えに来て一緒に暮らすことになる。

:新市 麦と一緒に暮らしていたが、離婚後は別々に。

あらすじ

麦の視点から見た町の描写は、静かで、少し寂しくて、でもどこか温かい。

彼女が暮らす「かなた町」は、九州北部の山間にある小さな町で、柳垣小学校がその中心。

親友の美冬が麦に言う。「うちのママ、貴理ちゃんのパパと不倫しとるんよ」

そんなママと暮らしたくなくて美冬は地元を出るために中学受験するらしい。

彼女にとって柳垣小学校は、両親の離婚や転校という現実の中で、自分の居場所=サンクチュアリだった。でもその「聖域」が終わろうとしている今、麦は自分の感情を整理しながら、未来へ向かう準備をしていくのである。

秋祭りの準備や、学校の靴脱場、校庭の風景など、麦の目に映るものはすべて「最後の記憶」として焼きついていく。

夕方に流れるドヴォルザークの「家路」が、麦にとっては「もう帰れない場所」への別れのメロディになっいる。

麦は出し物で校歌を歌ったが、引き取りに来た母に無理やりブラジャーを付けさせられて、息がしづらくてうまく歌えなかった。そこへ一緒に暮らしていた父が来て、いままでのことを少し話す。

カラオケ大会も終盤になり、出し物での失敗をリベンジしようと、麦は浩志らに声を掛けてステージに立った。

音源が無いので、吹奏楽部の子らが演奏して、まわりの大人らも巻き込んで大合唱となった。

麦は、明日からのことを考えると不安でいっぱいだった。

最終話「わたしたちの祭り

発達障害のある娘・春風(はるか)を育てるシングルマザー・村上三好が主人公の物語

登場人物

村上三好:シングルマザー。元夫が再婚してから養育費が途絶え、経済的にも精神的にも苦しい状況にある。

春風(はるか):柳垣小学校4年生。発達障害があり、母と二人で暮らしている。

あらすじ

三好は、元夫の再婚をきっかけに養育費が止まり、娘・春風との生活に追われながらも、柳垣小学校の最後の秋祭りに向けて準備を進めている。年配の婦人方の男に花を持たせとけばいいとかいう風潮にはうんざりして、持論を展開したら、うるさいやつは出ていけとまで言われて、準備の輪から立ち去った。

町の人々の視線や噂にさらされながらも、三好は娘のために懸命に生きている。

だが、元夫が再婚し、養育費が滞る。元夫の母も発達障害の孫を三好の育て方のせいにして追い出したという。

なんともつらい状況が三好を取り巻いている。

三好は、第1話で町を出て行った群先生のことを思い出していた。

許せない、という想い。納得のいかない別れだった。

また、ある女性を見て、彼女が昔いじめられていたのに声も上げなかったことを思い出し悔いた。

秋祭りの準備のとき、年配の婦人方に声を上げられなった友人らが、料理を持ってきてくれて食べていると、不思議な女性から声をかけられた。24年前にこの町を出て行った女の人の情報を探しているという。なんと三好の担任だった群先生のことだった。彼女は群先生とトモダチだという。

そのトモダチが言うには、いま群先生は初期の子宮癌で入院しているという。群先生の代わりに廃校になるこの小学校を写真やビデオに収めに来たらしい。20代前半くらいのこの夏美という子は、本当に群先生のトモダチなのか。

三好は夏美を連れて学校を案内し、群先生が見たそうな場所を紹介した。そして群先生のことを話した。群先生に向かって(GoProに向かって)話した。二人ともいいことを言う。もう逃げないで!群ちゃん!と夏美もGoProに向かって言う。

実は、三好は群先生の影響で、児童文学作家になっていた。このことは誰にも話していない。

夏美の話では、群ちゃんと逃げた画家の行方は分からないという。

帰る時間が来て、夏美がタクシーを予約した。夏美は群先生のことを良く思わない香坂玄という卒業生の名前を言う。そこへ、類の手を引いた香坂がタクシーめがけて走ってきた。

三好と夏美が立ちはだかる!

ここから緊迫のシーンが始まるとは・・・。香坂は類を第二の群先生にしようとしていた。駆け落ちと聞いてタクシーに乗せるわけには行かない。

夫が駆け寄ってきて、千沙と二人でいたことを謝りだした。ああ勘違いで修羅場だバンバ!!

とはならず、悟志は類を連れて去り、群先生の絵描きになりそこなった香坂も去った。

三好は、春風が舞台で歌う姿を見て、「この子の未来は、きっとこの町の外にある」と感じる。そして、自分自身もまた、過去のしがらみから抜け出して、新しい人生へ踏み出す決意を固める。

この話は、母と娘の絆と、町との別れが重なり、感動的である。タイトルの「わたしたちの祭り」は、三好と春風だけじゃなく、登場人物全員の「人生の節目」を象徴している。

全話を通して、秋祭りがそれぞれの人生を照らす灯火のようだ。

「秋祭り」を「故郷」に入れ替えても、この物語は成立しないだろうか。

そんな風に考えているわたしは、まさか故郷に別れを告げようとしているのかも知れない。自分でも分からない・・・。

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