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赤い部屋異聞 法月綸太郎 Red Room Revisited and Other Stories

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赤い部屋異聞 法月綸太郎 Red Room Revisited and Other Stories

赤い部屋異聞 法月綸太郎

概要と感想の前に

この本の成り立ちは、別の作家へのオマージュ連作である。
また、各短編ごとに、「裁断されたあとがき」と題して、作者が出てきて舞台裏を明かすという珍しい構成になっている。

目次

赤い部屋異聞(江戸川乱歩「赤い部屋」へのオマージュ)

レストラン・アカシヤ亭の二階で、「赤い部屋」の会が催されていた。
日常に退屈しきった痴れ者が集まり、珍しい知識やすごい体験を追い求めるのが目的だ。
そして、新入会員のT氏が披露したのは、少しも法律に触れる気づかいのない殺人法がいくらでもあることに気づいて、退屈を紛らし、愉快になった99の経験を披露したのである。
はて、T氏は犯罪者として裁かれるのか。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

砂時計の伝言(コーネル・ウールリッチ 「一滴の血」へのオマージュ)

根岸は体外離脱しようとしていた。『どうやら、俺は、死にかけているみたいだな。』
『池戸なずなだ――俺をあんなふうにしたのは。』
砂どけいを使ったダイイング・メッセージが面白い。

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続・夢判断(ジョン・コリア「夢判断」へのオマージュ)

心理カウンセラーの私の相談室に、青年が入ってきた。その青年の悩みは、毎晩見る変な夢についてであった。
だが、その内容は、ジョン・コリアが書いた「夢判断」にそっくりだったので、この青年は嘘をついていると確信した。

そのジョン・コリアが書いた「夢判断」では、そのあと彼女が相談にきて、彼と同じことを、今度は彼女の目線から語るのである。
お互いがお互いを見たという夢の悩みの相談を、同じ心理カウンセラーにしていて、彼女の相談のときに、それが再現されてしまったというものである。なかなか面白い。

気を取り直して、その青年のカウンセリングを続けようとしたとき、その青年の彼女が相談に来たと連絡が入る。
そして、実は青年の夢の相談は、彼女の代理であったことが告げられた。
そのあと、彼の名演技で、窓の外を落ちる彼女に目を奪われた(ような感じになってしまった)のである。

気がつくと、演者の姿は消えており、かつがれたと思った。
受付けの古柴仁美は、相談者らは出て行ったが、その時、どちらかが名刺を落としていったという。見ると、同じビルの劇団のものだった。心理カウンセラーの私は、これらの演技は、劇団のオーディションだったにちがいない、と考え、劇団に行こうとするが、古柴が止める。

ブラインドを下ろして、最後に放つ彼女の言葉が、こわい。えっ!

赤い部屋異聞 法月綸太郎

対位法(フリオ・コンサルの「続いている公園」へのオマージュ)

夫婦の寝室。それぞれ寝付けなくて、夫は寝室の隣の書斎で、妻はベッドの中で、それぞれの読みかけの小説を読みだす。
どちらも、もう少しでクライマックスのようだ。若い脚本家とベテラン女優が出てくる。
ふたりは、できていたが、若い脚本家は、ベテラン女優の若い付き人と恋に落ちる。その若い付き人は、ベテラン女優の夫から手を出されていた。怒り狂ったベテラン女優を恐れた、若い二人は、彼女を殺害することを計画する。

そして、ものがたりはいつのまにか現実と交錯して、若い脚本家がナイフを握りしめて侵入しようとしている邸の窓からは、読書をしている夫婦の読書灯がもれていたのである。

はたして、殺されるのはダレか。この物語の夫婦がいるのは、フィクションの世界か現実の世界か。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

まよい猫(落語の動物変身譚である「元犬」へのオマージュ)

ぼくは、「迷子のペット捜し」をする“どりとる探偵社”を運営している。
ぼくの秘書は、オウムのピンカートン嬢である。

不思議な依頼者がやってくる。
本人は気がついていないが、人間の姿をした猫だった。なぜか言葉は話せる。

昨晩、ご主人様と一緒に寝たのだが、朝起きると、ご主人が居なくなっていたというのである。
自分は猫だと思っている本人は、探偵社に、ご主人を捜してほしいと言う。
あなたは人間に見えますが、どういうことですか?
と確認されて、ようやく自分の姿がそのご主人だと気づくのである。

探偵のぼくは、飼い猫とご主人様が入れ替わったと分かり、現場に行けば問題は解決すると直感して、相談者のマンションへ向かった。
さて、どうなったかな。

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葬式がえり
(工藤美代子の「神々の国 ラフカディオ・ハーンの生涯<日本編>」、ロバート・トゥーイ 山本光伸訳「予定変更」などへのオマージュ)

とても恐ろしい話だ。
これは、そのまま読んだ方がいい。大学時代の朗読劇サークルの先輩の奥さんが亡くなった。
葬式の帰りのタクシーでの、元サークル員のふたりの思い出の妖怪話である小泉八雲の「小豆とぎ橋」の女の幽霊のはなしは、夜に聞くと怖い。
泥酔いした友人の桜内を送り届け、ひとりタクシーで自宅に向っているときに、ふと、おそろしいことに気づく。
そう、女の幽霊のはなしの後日談は、怪談を利用した殺人のしっぺ返しだったのではと。

その考えのあと、さらに恐ろしいことを思いだしたのである。偶然を利用し、魔が差した自分の今朝の行いを。そしてタクシーから我が家の灯りが目に入った。最後の最後に、恐ろしい現実が待っている。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

最後の一撃
(クレイグ・ライスの「馬をのみこんだ男」、レーモン・クノーの「文体練習」、アントニー・バウチャーの「決め手」へのオマージュ)

・刑事弁護士 ジョン・J・マコーン
・殺人課刑事 フォン・フランガナ
・被害者 ホープ氏
・被害者の妻 ホープ夫人
・ドクター ピース氏、催眠療法
・家政婦

細断されたあとがきによれば、いろいろな作家の作品を参考にしたものだと分かる。
内容としては、アメリカの普通の刑事ドラマでも見ているような感じであった。
催眠療法を使った自殺に見せかけた殺人であれば、本人が自分で自分を撃ったとしても、殺人罪を問えるらしい。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

だまし舟(都筑道夫の「阿蘭陀すてれん」へのオマージュ)

私は、同業の汐見にホテルのロビーに呼び出された。
不思議な本のことについて相談される。
その本は、タイトルも著者名も書いてない。そのまま受け取ったので、天地が逆だろうと思い、ひっくりかえして扉を開くと、「だまし舟 乙野佳哉著」と印刷してある。おとのよしや?
本は、実家の兄嫁から借りたという。
私は、その著者名から回文の短歌を思い出した。『長き夜の 遠の眠りの みな目覚め 波乗り舟の 音の良きかな』
そういえば、折り紙で作る「帆掛け舟」は、「だまし舟」と呼ばれていた。
汐見は、「この本が、どうしても読めない、から、先に呼んで話を聞かせてくれ」と言う。
私は家に帰り、さっそくこの本を読み始めた。するとしばらくして汐見から電話が入る。それ以上読むと何が起こるかわからないから、直ちに読書を中止し、すぐに本を返してくれという。

そんなこと言われたら、逆に読みたくなるものだ。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

迷探偵誕生
(ジョージ・R・R・マーティンの「成立しないヴァリエーション」にインスパイアされて)

絶対に間違わない探偵がいた。その名は、多岐川深青(たきがわみさお)。
彼の探偵事務所に貼ってある写真の男は、ガルリ・カスパロフ。チェスの世界チャンピオン。
そして、その史上最強のチャンピオンを打ち負かしたIBMのチェスコンピュータの名が“ディープ・ブルー”
多岐川深青の「深青」を英訳したもので、多岐川こそが最高の名探偵だと言っているかのようだ。

なぜ彼が絶対に間違わないのか、なぜ過去十五年は、よく犯人を間違う夢を見たのか、の種明かし(真実)は、SF的だ。
そのような発想は、量子力学の多世界解釈(シュレーディンガーの猫)にヒントを得たものらしい。
キーワードは、並行世界だ。
ちょっと違うと思うが、映画のマトリックスを思いだした。

赤い部屋異聞 法月綸太郎

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