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余命10年 小坂流加 後10年しか生きられないとしたら、あなたは何をしますか。

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Amazon primeですぐ読める本のリストにあったので、何気なく読み始めていましたが、映画化されると知って、一気に読みました。
普段は、このタイプの本は読まないのですが、何か気になってクリックしていました。

小坂流加さんのプロフィール(本書の紹介文より)

7月4日生まれ。 静岡県出身。第3回講談社ティーンズハート大賞で期待賞を受賞。

作品の背景

あと10年しか生きられないとしたら、あなたは何をしますか。

あらすじと感想

茉莉は、不治の病に侵されて2年間入院生活を送った。退院してから3カ月を過ぎ、中学時代の同級生の沙苗にアニメのコスプレに誘われ、絶望しかなかった病院での2年間を埋めるように、生き急いだ。

コスプレのイベントで楽しいこと、したいことしている感覚。自分だけの解放区を見つけたと思った。沙苗が描くマンガの同人誌は飛ぶように売れ、茉莉もペンを持たされた。いつのまにか活力がみなぎるようになり、1冊の同人誌を描き上げた。『描いているときだけは心も体も病気を忘れられた。』

人は病気になった友人を見舞うとき、楽しい日常のことを話すだろう。でもそれは、その病気の友人を落ち込ませるだけだと気付いているだろうか。自分は気づいていただろうか。友人の話すのをちゃんと聞いてあげられただろうか。私はかつて死んだ友人のこと、死の前日、病院で握手した彼の手の感触を思い出していた。

茉莉の作品は、プロの目から見れば、平凡なものだったようだ。
そして、短大時代の友人たちとの飲み会や、ちょっと無理やりな彼氏紹介も、茉莉にしてみれば、余計なお世話だった。学生時代の友人の結婚ラッシュに加えて、姉の結婚が続く。空席が1つ増えた家族の中で、より明るく振舞う茉莉。
『過去は変えられない。でも未来さえ変えられない。』
なんという絶望だろうか。
この本を読みながら、また別の身近な亡くなった人たちを思い出していた。

そして、茉莉はカズくんに出会う。小学校以来。
もう会わないと決めたはずなのに、茉莉は彼と会ってしまう。茶道の家元の跡継ぎの重圧から逃げる彼は、自分のことをもっと茉莉に理解してほしいと思う。
でも茉莉はもう会えなくなるのが怖くて自分が余命数年とは言えぬまま、黙って彼の実家に近づく。ついには茶道の体験コースに申し込んで彼の母に遭遇してしまうばかりか、持病のためそこで倒れてしまう。

再び漫画を描くことにのめり込むが、みんなから彼氏を作って楽しむことを迫られ、ついに余命のことを話してしまう。

ここに描かれているのは、健常者が如何に気を使っているつもりで言葉を発しても、それらはすべてナイフのように茉莉の心を傷つけるだけだということに気づかないさまである。

だがしかし、容赦なく彼との時間が過ぎてゆく。和人は和人で、茉莉が最後の最後で心を開いてくれないのは、自分が持つ家元という大看板のせいかと、そして過去の彼女にそう言われて別れたことを思い出していた。

茉莉は、やっと彼に本当のことを話すことができた。そのときの茉莉は落ち着いており、聖母のような表情であった。もちろん、和人には納得できない。茉莉の両親や病院の先生に話を聞いても諦められない。たとえあと3年であろうと、彼は茉莉と結婚したかった。

つぎの茉莉の台詞は、読者の胸に突き刺さる。
『和人は生きてるんだよ。今もこれからもずっと生きるの。捨てたら許さないからね。わたしに点(た)ててくれたお茶を捨てたら、許さない!! ・・・』
このあとの会話のシーンで泣かない人はいないはずである。

『あと3年、やってみるよ。和人に教えてもったから。
生きてるのがこんなに愛しいことだって。
死ぬ準備はできた。
だからあとは精一杯、生きてみるよ。

彼女の病室での死ぬまでの思考は、果てしなく長くつらいものである。
自分ではできないことが増えて行くさまは、読者も同じような感覚を味わえるだろう。いいか、嫌かに関わらず、読めば感じる。自分の将来にも、このシーンはあるかも知れないと小さな覚悟ができる。『だから当たり前のことにも感謝して過ごそうと心がけていた。』という茉莉のことばに納得する。

そんなとき、姉の桔梗が妊娠したという。
『人が死ぬということは単純な引き算でしかないけれど、人が生まれるというのは足し算では収まらない掛け算の出来事なのだ。』
『わたしは子供を産めなかったけれど、叔母さんにはなれた。』
すこし、前向き?にはなれたのだが、時間は止まってはくれなかった。

斎場の祭壇に茉莉の美しい写真が飾られていた。
和人は最後のお別れに来た。
茉莉はその姿を見てほしかったのだろうか。おそらく綺麗な死に化粧をされていたと理解しておく。

それから8年が経過して、和人が小学校を訪れる。そして茉莉との行動においても繋がりを感じることになる。彼もまた思い出を捨てに来たのだった。

小学校にはひとつの伝説がある。という話で締めくくられている。
図画工作室の棚の一番奥・・・・。

そして、わたしは本の最後に書かれていた著者のプロフィールを見て固まった。

『小坂流加 本作の編集が終わった直後、病状が悪化。刊行を待つことなく、2017年2月逝去』

ご冥福をお祈りいたします。

主な登場人物紹介

父、母
├姉:桔梗(既婚)、旦那:鈴丘聡
└私(茉莉)、余命10年、、20歳で
余命10年を宣告され短大中退

友人
├礼子(同じ病室、逝去、夫、小学生
│の息子)
├藤崎沙苗(中学時代の同級生)
├月野さん(沙苗の仲間、やや年上)
├美弥(短大時代の友人、夫:亮)
├奈緒とサオリ(短大時代の友人)
├安藤さん(亮-2才、設計事務所)
├新谷美幸さん(いじめ謝りたかった)
└和人(小学校の同窓会で再会)

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