まえがき
以前に、月村良衛さんの「コルトM1847羽衣」を読んだときの、主人公やその仲間たちと敵対するグループらとの戦闘シーンの迫力がものすごかった印象が残っていて、今回はその現代版とでもいうべき傑作だと思う。2023.4.6発行。
登場人物
日本警察
・管理官 水越真希枝 警視
・係長 七村星乃 警部
・主任 嵯峨秋人 警部補
・捜査員 山吹蘭奈 巡査部長
・捜査員 小岩井光則 巡査部長
香港警察
・隊長 汪智霖(グレアム・ウォン) 警司
・副隊長 郜烈(ブレンダン・ゴウ) 総督察
・主管 費美霞(ハリエット・ファイ) 見習総督
・調査員 景天志(シドニー・ゲン) 警長
・調査員 胡碧詩(エレイン・フー) 警長
警視庁
・武島 刑事局捜査第一課課長
・磯辺 刑事局捜査第二課第四知能犯特別捜査第13係係長
警察庁
・諏訪野 刑事局組対部薬物銃器対策課課長補佐
その他
・虞嘉玲(キャサリン・ユー) 九龍塘城市大学元教授
・呂子雄 セントラル・アジアン総業役員
・梶原咲代 在日香港人実業家の使用人
あらすじ
第一章 井水不犯河水
香港の元大学教授であるキャサリン・ユーが民主化運動を煽り、死者7人を出す事件を起こし、中国政府から逃亡。日本でサーダーンと呼ばれる犯罪集団に匿われているらしい。
中国の要請に応じてキャサリン・ユーの引き渡しの協議が進む中、日本警察は真相究明に乗り出す。捜査の中でインゴット密輸の犯罪組織が浮かび上がり、キャサリン・ユーの身の安全を確保するべく動く。
今後の捜査方針の一つにセントラル・アジアン総業の内偵を進めることが決まり、嵯峨主任、山吹捜査員、ハリエット主管の三人で訪問した。女性が二人もいたことで油断したのか中に通され、責任者の呂に会った。隙を見てキャサリン・ユーが軟禁されていないか調査するつもりだった。
ここからはしばらく、手に汗を握る戦闘シーン。ハリエットは無事なのか。
応接室に残された、嵯峨や山吹も巻き込まれたハズ!
思いもよらぬ展開に、目はくぎ付けになる。
ハリエットは意識不明、キャサリン・ユーは逃亡した。
第二章 香港無民主、但有自由
犯罪組織「黒指安」がセントラル・アジアン総業を襲撃したことで、サーダーンとの対立が明るみに出た。
その襲撃の戦いで死んだ「黒指安」のひとりが顔認証から殺し屋と特定され、キャサリン・ユーが起こしたとされるデモを煽っていたことをシドニー調査官が発見した。
キャサリン・ユーの逃走経路が判明し、香港出身の大手商社の香港支店に勤務していた人物の住宅に辿り着くが、捜査一課に先を越される。
捜査一課から情報の一部を入手し、香港人コミュニティとの繋がりが浮かび上がり、キャサリン・ユーが中国共産党に冤罪で狙われていることが分かる。
加えて、中国共産党と謎の組織サーダーンの関与が浮かび上がるとともに、香港の2047年問題(一国二制度の終わり)が背後にあることが判明する。
香港の未来にかかわる利権争いが捜査員に衝撃を与える。
使用人の女性から、キャサリン・ユーの「重大な秘密」をハリエット主管に伝える意志がある、との情報が入った。
第三章 命運自主
ハリエット主管は使用人の女性と面会し、キャサリン・ユーが起こした行動の背景を知る。
香港警察チームはショックを受け、自らの存在意義に疑問を抱く。
一方、本庁は謎の組織サーダーンとキャサリン・ユーの潜伏先のスーパーを特定し、SATの投入を決定。これとは別に特助班は嵯峨主任が不良時代の先輩ヤクザから情報を得て、黒指安の動きを知る。真の潜伏先は「調布の顕頼寺」。
だが、スーパーへのSAT投入の再考を上層部に進言するも却下されてしまう。
はたして、特助班は上層部の暴走を止められるのか。キャサリン・ユーが起こしたデモの背景とは何か!
顕頼寺への黒指安の襲撃を阻止し、キャサリン・ユーを救出するためには一刻を争う。
このあと展開される銃撃戦や素手格闘、早い場面展開はまるで映画を見ているようなスピード感である。
是非このアクションシーンを味わっていただきたい。
月村良衛さんのプロフィール
1963年、大阪府生まれ。早稲田大学第一文学部文芸学科卒業。2010年『機龍警察』でデビュー。12年『機龍警察 自爆条項』で第33回日本SF大賞、13年『機龍警察 暗黒市場』で第34回吉川英治文学新人賞、15年『コルトМ1851残月』で第17回大藪春彦賞、同年『土漠の花』で第68回日本推理作家協会賞〈長編及び連作短編集部門〉、19年『欺す衆生』で第10回山田風太郎賞を受賞。他の著書に『白日』『非弁護人』『機龍警察 白骨街道』『ビタートラップ』『脱北航路』などがある。(WEB上の紹介文より) 〆