MENU
ホーム » 書評 » 大衆文学 » 『長いお別れ』認知症になった父を妻と三人姉妹が支えあうつらくも心温まる物語
この記事の目次

『長いお別れ』認知症になった父を妻と三人姉妹が支えあうつらくも心温まる物語

  • URLをコピーしました!

当サイトはアフィリエイト広告を利用しています。

中島京子 1964年生まれ。作家。東京都杉並区出身。埼玉県和光市、八王子市育ち。父はフランス文学者で中央大学名誉教授の中島昭和。母はフランス文学者で明治大学元教授の中島公子。姉はエッセイストの中島さおり。2015年刊行の『長いお別れ』で中央公論文芸賞と日本医療小説大賞を受賞。

目次

登場人物と感想

1.全地球測位システム

◆東家
東昇平 父 (認知症)
東曜子 母
茉莉  長女 (潤15歳、崇6歳)
菜奈  次女 (将太 8歳)
芙美  三女 (独身)

◆夜の後楽園のメリーゴーランド
優希  姉
瑠依  妹

こんな小説があったのか。我々の家族と同じ。姉妹を兄弟に変えるだけだ。
そんな私の心に残るこの小説の状況をピックアップしてみます。

2.私の心はサンフランシスコに

母の曜子が言う「お父さん、知らない人が相手だとカッコつけるの」
そうだ。うちも同じだ。

3.おうちへ帰ろう

父の昇平は、自宅や生まれた実家に居るときでさえ、「帰ろう」と言う。
いったいどこへ帰りたいのか。我が父も「もう帰れるかな」とよく言う。

4.フレンズ

親友が亡くなっても分からない昇平。
我が父も、自分の兄の葬儀に出た翌日、そのことを思い出せなかった。行かなかったのと同じ。

5.つながらないものたち

昇平の話す言葉の意味が分からない。「中学のやつらもどんどんあろってきて」
娘は聞き返す「あろってくる?」もう意味が分からない!
長女は親と同居しなければと思うが、アメリカに住んでいるので、夫や息子に言い出せない。
私と家族も実家から遠く離れて住んでいるので似たようなものだ。

6.入れ歯をめぐる冒険

どうやら、昇平は入れ歯を失くしたらしい。
施設では、歯医者を読んで入れ歯を作ってくれるが、昇平は歯医者が来ると口を開けないのだ。
これも我が父と同じだ。自分でかみ合わせが悪くなった入れ歯を捨ててしまった。
どこを探してもないので新しいのを作ろうと言うと、いらないと言う。この態度も昇平さんと同じだ。
母や近くに住む兄弟はなんとか入れ歯を作ろうとしている。
私はどうせまた捨てるのだと思うが。
説得した苦労と、入れ歯代2万円が毎回泡と消える虚しさが残る。

7.うつぶせ

母の曜子が、網膜剝離で2週間も入院することになった。
母の入院は我が家と同じだ。老老介護をしていた我が母が、難病にかかり入院してしまった。
おかげで私と妻は遠方から実家へ駆けつけ、二ヶ月も父の面倒を見ることになったのを思い出した。
コロナでのリモートワークの経験が役に立ち、私は離職せずに済んだが地位は失った。

8.QOL(クオリティ・オブ・ライフ)

とうとう昇平さんも原因不明の発熱で入院する。検査しても内臓に異常はなかったが、大腿骨を骨折していたらしい。
だが先生は高齢のため手術はできないという。このまま寝たきりとなり衰弱して死亡することが多いという。
こんな状態なのに、「今日は帰られますか?」と医師は聞く。家族は意味が分からず、きょとんとする。それはそうだ。
病院側の論理では、ここではもう処置できることはないので、引き取って帰ってくださいということらしい。
「え?歩けないのに帰れと言うんですか?」という質問に「お嬢さんががんばるしかありません」と医者は言う。
これが日本の病院の現実である。

母の曜子は思った。
「夫がわたしのことを忘れるですって? ええ、忘れてますとも。・・・夫は妻の名前を忘れた。結婚記念日も、三人の娘をいっしょに育てたこともどうやら忘れた。二十数年前に二人が初めて買い、暮らし続けている家の住所も、それが自分の家であることも忘れた。・・・」

我が家もあと2ヶ月以内に老人ホームを探さないと、歩けない父を引き取らないといけない。入院していて母がいない実家で、昇平さんと同じく歩けない我が父は生きていけないから。
だが、この小説にも書いてあるが、老人ホームとて万能ではない。どうしようもなくなったり、病院へ行かなければならなくなったりしたときなどは家族に付き添えと言うところが多いらしい。それができないからお金を払って預けているのに。病院と同じでどうにもできなくなったら放り出される。そして家族でなんとかするしかなくなる。日本の福祉も結局金次第なのである。

さいごに

この中島京子さんの「長いお別れ」という小説での長女の立場は、私の立場と似ていたので、そうそうそう!と相槌を打つ内容が満載でした。調べてみると、2019年5月に映画化されているようなので、機会があれば観てみようと思う。お金があれば病院へも付き添ってくれる老人ホームもあるようだ。やはり特養老人ホームが千人待ちなどという状況は、国などが対策してくれないと、小市民の我々にはどうしようもない。今の政治家は、なぜ千人待ちと聞いてなにもしようと思わないのか。日本や世界のお金持ちは、宇宙旅行したり数十億の絵画を買ったりするのは自分の勝手かもしれないが、たまには民間の特養老人ホームを作ってくれても良さそうなものだが・・・。

書籍情報

・形式        文庫本
・出版社            株式会社文藝春秋
・ページ数      288頁
・著者          中島京子
・発行        2018年3月10日
・分類        文芸作品

広告



著者情報

1964年生まれ。作家。東京都杉並区出身。埼玉県和光市、八王子市育ち。父はフランス文学者で中央大学名誉教授の中島昭和。母はフランス文学者で明治大学元教授の中島公子。姉はエッセイストの中島さおり。
2003年田山花袋『蒲団』を下書きにした書き下ろし小説『FUTON』でデビュー。野間文芸新人賞候補となる。2010年『小さいおうち』で直木賞を受賞し、2014年に山田洋次監督により映画化。同年、『妻が椎茸だったころ』で泉鏡花文学賞を受賞。2015年刊行の『長いお別れ』で中央公論文芸賞と日本医療小説大賞を受賞。著者多数。近著に『かたづの!』、『ゴースト』、『樽とタタン』。翻訳に『地図表』(董哲章著 藤井省三氏と共訳)(本書およびネットの情報から)

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次