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小さな場所 東山彰良 台湾の紋身街という刺青屋が多く立ち並ぶ街で生まれ育った子供と大人、弱者とヤクザは同じ場所で生きている

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まえがき
この本の備忘録として、あらすじと感想(下線部)を残しますが、どのお話も結末は伏せてあります。

東山彰良さんのプロフィール(本書の紹介文より)
1968年 台湾生まれ。ひがしやま あきら 5歳まで台北で過ごし、9歳の時に日本へ。福岡県在住。

著者の作品(本書の紹介文より)
2002年「タード・オン・ザ・ラン」で第1回「このミステリーがすごい!」大賞銀賞・読者賞を受賞。03年、同作を改題した『逃亡作法 TURD ON THE RUN』で作家デビュー。
09年、『路傍』で第11回大藪春彦賞受賞。13年刊行の『ブラックライダー』が「このミステリーがすごい! 2014」第3位、第5回「ANXミステリー 闘うベストテン」第1位
に。15年『流』で第153回直木賞、16年『罪の終わり』で第11回中央公論文芸賞、17年刊行の『僕が殺した人と僕を殺した人』で第34回織田作之助賞、第69回読売文学賞、第3回渡辺淳一賞を受賞。他著に『女の子のことばかり考えていたら、1年が経っていた。』『夜汐』『DEVIL’S DOOR』、エッセイ集『ありきたりの痛み』『越境』など。

もくじ


作品の背景

台湾の紋身街という刺青屋が多く立ち並ぶ街で生まれ育った子供と大人、弱い者とヤクザたちの物語。著者の年齢から考えると1970年代の物語と推察。


あらすじと感想

黒い白猫

台湾の紋身街という刺青の街で、彫り師のニン姉さんやケニーらの大人が主人公の小学生の小武の食堂でいろいろな話をする。
ひとりの17歳の娼婦と、その子が生きて行くために決意した刺青のこと。
刺青を入れる理由は、間違った行いの、命を捨てるため。ニン姉さんは、それがないと生きていけない人にしか入れちゃいけないと言うが、その子はこれから生きて行けるのだろうか。人によっては、刺青は自分自身への死刑宣告だとも言う。

その子は、死のうと思っていて、顔に刺青を入れてほしいと、ニン姉さんに頼んだ。
ニン姉さんは、普通は受けないそんな注文を聞くことにしたが・・・

黒い白猫とは、刺青を入れた人間を例えているのか。
ニン姉さんのところに黒い猫が住み着いているという。

神様が行方不明

次は、武昌街の話。探偵の孤独さんは、小武の店からときどき弁当の出前を取ってくれる。
本名はロンリー(龍礼)なので、あだ名が孤独だ。彫師たちは客の空いている時間にまとまって小武の店に食べにくる。
土地公廟の神様である土地公が廟からどこかへ遊びに出かけたらしい。ヤクザのアワビは親分から探すよう命じられた。藁をもすがる思いでアワビは探偵の孤独さんを頼った。
孤独さんには、ある特技があった。はたしてヤクザからの難題を解決できるのか。

骨の詩

郷土数学の授業を担当しているフオミンダオ(雀明道)先生の話。
彼は台中のセデック族。原住民は中国名のほかに彼ら自身の名前がある。
フオ先生のほんとうの名前は、ノーカン・ワタン。
漢中街のクラブで発見されたと言うニン姉さんの猫を小武が引き取りに行くことになった。
クラブに行くと、驚いたことにフオ先生がステージで野球帽をあみだにかぶり、太陽や月や鹿の心臓のことを歌っていた。それが「骨の詩」
痩せている骸骨のような先生が歌っている、まるでワンピースに出てくるブルックのようだ。
先生が歌っているのは、モナ・ルダオのことで、むかし日本人をたくさん殺して、もっとたくさんの山地人が殺されたことを歌っているらしい。日本が統治していたころの話だろう。

 どうしてラップなんかやってるんですか? 楽器ができないからね。
なにかを表現しなければならないのは呪いのようなものだ。
自分が表現したことを他人と共有できたとき、黒い呪いは白い呪いに変わる。
むかしの原住民たちは顔にそれぞれの部族のしるしを彫っていたんだ。

日本人はぼくたちの檜を欲しがった。東京にある明治神宮の鳥居は台湾の檜を使っている。これが本当なら、日本の代表的な神宮は台湾の神聖な森を伐採した木でできているということになる。これは事実なのかとネットを調べると事実らしい。台湾を統治していた総督府が阿里山にあった巨木を伐採して献木したと書いてあった。

このあと、フオ先生と優等生の女の子との間で起こった出来事が記されている。

あとは跳ぶだけ

レオことワンリイ(王立)の話。彼の身に厄災が降りかかった。でも彼はかなり這い上がったらしい。
ケニーは、刺青を消すためのクリニックを開きたいと言う。
ケニーは、ありえない方法で刺青を消した男の摩訶不思議な方法について話はじめた。
その男は、いろいろあって、王二本と呼ばれた。彼は小さな出版社を立上げ、誰も知らない詩人や作家を数多く台湾に紹介した。
ずっと赤字続きの彼の心を支えた詩人が、イギリス生まれで、のちにアメリカに渡ったオーデンだった。

 危機感を失ってはならぬ
たとえゆるやかに見えたとしても
道は疑いようもなく危険だ
いくら眺めていてもよいが、しかしきみは跳ばねばならぬ

王二本は、息子のレオが中学で煙草を吸ったとき、高校で刺青を入れたとき、役者になる決心をしたとき、ため息をついた。「そういうのは跳ぶとは言わないんだ」
レオには分からなかった。

この社会では、刺青と言うのは自分が日陰者だと宣言するようなものだ。
そしてレオは、兵役時代に虎の威(刺青)を借りる狐のようになった。

レオは退役後、劇団に入り運命の娘と出会うが、悲しい出来事があり、過食で太り続けた。
そして、ベッドから起きて外へ出ようとして心臓が悲鳴を上げた。
このままでは・・・。彼はある目的のために、猛烈なダイエットを始めた。

そしてかれは、日本のロックバンド、ミッシェル・ガン・エレファントの「バードメン」の歌詞を聞きながらダイエットトレーニングに励んだ。

 さっきまでかアタマの中ではねた
転がりは見えないままでがなる
踊るロマンのチミドロで
軽くなるだけあとはトぶだけ

あ、この章のタイトルが歌詞に含まれていある。「あとはトぶだけ」

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感想(3件)


努力して痩せたレオの人生の歯車が正しく動き出した。

 見るまえに跳べ—ここに至っては、認めないわけにはいかなかった。ある人をどんなに憎んだとしても、その人からあたえてもらった正しいものまで憎む必要はないし、それが自分を支えてくれることもある。生きるのだ。誰のことも踏みつけにせず、おれは生きるのだ。

その後のレオに待っていた運命は。。。

天使と氷砂糖

ヨウシャオポウ(游小波)の話。
タピオカミルクティーを売っていた阿華(アフア)は、三十路がらみの客の女にクレームを付けられた。ストローに虱がついていたと。アフアはかゆい股間を搔いていたのでどうもほんとうらしいが。。。
証拠の虱が居なくなって、言い負かされた女はSNSで醜聞を拡散した。商売あがったりである。
その腹いせに、游小波から毛虱をうつされたとSNSで拡散した。証拠もないのに酷いやつである。でも自分がその女と遊んだこともバレてしまうのだが、商売の方が優先? いやそんなことをしたら虱の話はほんとうだったと白状しているようなものではないか。

 みんなが阿華のようになんでも他人のせいにするなら、この世から争いごとなんかなくなりっこない。だけど、他人のせいにすることができれば、すくなくとも楽には生きていける。

小武は、小波がたまにくれる氷砂糖が好きだった。
彼女はピアス店で働き、暇なときにはリーアン(李昂)という同じ出身地の作家の本を読んでいた。
彼女は小武の言った余計なひとことで、胸の真ん中に刺青を入れた。
風邪を引いた小武は、ピッグボーイの店へ行った。彼女は奥のロフト部屋に眠っていた。
彼女は下半身にブランケットをかけ、上半身はむきだしだったが、小武に気づいて、ベッドへ手招きをして。。。

小さな場所

小武は、アランとペイルンとで、壺の中に好きなものを入れる遊びをしていた。完全無欠なる楽園の壺だ。三人は自分だけの空想の壺の断面図を描いて見せあっていた。なかなか楽しそうな遊びだ。やってみたい。
小武は、紋身街は要らないと言われて反論していた。
今は必要ないからって、一生必要ないとは限らないんだから!

そういえば、ニン姉さんが刺青を見せびらかすケニーにブチ切れたことがあった。
刺青って牙のようなもんでしょ、牙って本当に使わなきゃならないときまで隠しておくもんでしょ!
小武は、家に帰って、ニン姉さんピッグボーイにこのことを話すと、彼らも腹を立ててくれたが、阿華は冷ややかだった。

いろんなことが重なって小武は不安になった。今の生活が永劫不変ではなく、いつか消えてなくなるかもしれないということに気づいて戦慄した。
たしかに、わたしも小学生のころが一番しあわせだったような気がする。

そのころ、国語で作文の宿題がでた。課題は「わたしの街」
小武は、生まれ育った街のことを書こうとしたが、心が浮き立つような思い出はなかった。
しかたなく、適当に原稿用紙の升目を埋めていると、どんどん物語が湧いて出てきた。井の中の蛙の話だった。

小武とアランが喧嘩しているところにペイルンが駆け込んできて、お祖母ちゃんが死んでいる、でもお祖母ちゃんじゃない!と言う。
三人は、ペイルンの家で、死んでいる知らないお祖母さんの前でどうしていいか分からなかったが、大人がやってきて解放された。

小武とアランは、帰途に就く。そこで小武は、蛙の物語に磨きをかけた。

 頭の中のランプはいつしか街灯みたいに正しい道を照らしていた。その道の先には、ぼくが自由になれる唯一の場所がある。そんな気がした。どんなにちっぽけな場所だろうと、自由になれるところがあるのはとてもいいことだった。

小武が蛙の身になって考えると、まるで冬眠から覚めたみたいに物語がまた動き出した。

主な登場人物紹介
・寧(ニン)姉さん、スタジオ「キャッツアイ・タトウー・スタジオ」経営
・景健武(ジンジエンウ)、通称を小武という。親が食堂を営む主人公
・猪小弟(ピッグボーイ)と弟の喜喜(シーシー)、ピッグボーイは彫り師
・百貫デブのケニーも彫り師
・阿華(アフア)はタピオカミルクティーを屋台で売る
・アランは軍人の孫
・ペイルンはパイナップルケーキを売る店の子

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