はじめに
アフリカの漁村からはじまり、全世界規模へ拡大したワクチンの無い新型炭疽菌の感染症災禍。
特定された発生源は――国際宇宙ステーション(ISS)の日本モジュールだった!
なぜISSに炭疽菌が存在するのか? 国家テロの疑いを掛けられ、世界中からバッシングを受ける日本。
しかし、炭疽症で首相を含めた内閣首脳陣を亡くした政府は機能不全に陥っていた……。
そんな折も折、災害派遣中の自衛隊員複数名が脱柵、消息を絶つという重大事案が発生する!
元自衛官で宇宙飛行士の矢代相太は、炭疽症に感染した妻を救うため、政府にある条件を提示して真相究明に乗り出す――。
(著書の裏表紙から)
主な登場人物
■自衛隊
田淵量子 陸上自衛隊員、二尉、普通科連隊本部管理中退・第四特殊小隊隊長
総社左門 曹長
小谷武史 三曹
黒沢陸将 陸上総隊の司令官
須藤浩三 元陸将補 大臣政務官
新谷七穂 衛生兵(対特殊武器衛生隊) 炭疽菌治療薬の開発者
■国際宇宙ステーション(ISS)
矢代相太 宇宙飛行士 妻は聡美、息子は慶太1歳
エドガー・クロフォード 宇宙飛行士
柿崎健太郎 宇宙飛行士
あらすじ
第一章
田淵量子 陸上自衛隊員
炭疽症による感染で老夫婦の遺体を回収する、これが第四特殊小隊の今回の任務である。
部下の総社左門、小谷武史らも参加したが、精神的にもきつい任務で、その任務のすぐあとでの食事にも慣れなければならない。
矢代相太 宇宙飛行士
相太は、ISSと補給船との衝突事故の調査のため、地球から400Km離れたISSに居た。
JAXA管制チームの指示に従い、調査を進めた。そして、日本モジュールのエアロックのハッチを開くとあったスライドテーブルに乗った小さな黒いコンテナから高い濃度の炭疽菌反応を検出した。
発端はアフリカの小さな漁村かと思われたが、数十キロ離れた都市でも感染が確認され、陸路での感染では無いと判り、空路を調べたが該当する飛行機は無かった。
調査範囲を宇宙にまで拡大した結果、衝突事故を起こしていたISSが唯一地上の感染地域のラインと一致した。
そして、日本にいる相太の妻が新型炭疽菌に感染したこともあり、相太はISSに向う調査隊に加わることにした。
小谷武史 陸上自衛隊員
小谷家は田淵量子隊長に恩義がある。
任務を終えた小谷が、現地のパチンコ店内に設営された簡易風呂に入ると、なんと女性の田淵量子隊長も男湯に入って来た。レンジャー部隊の資格をもつ田淵隊長の体は鍛え抜かれており、男性隊員らはそれに見とれていた。
が、ほとんどの者は湯舟から出られなくなっていた。。。
風呂から上がると、TVニュースで、ISSの日本モジュール「きぼう」から炭疽菌が発見されたという驚くべき内容を伝えていた。
日本が大変なことになる!
矢代相太 宇宙飛行士
相太は宇宙から帰還後、炭疽菌除去の隔離措置を受けたあと、ロシアから尋問される。
その前に、かつての同僚であった、田淵量子に電話をし、妻を救うため、真相究明の協力を依頼したが、意外にも答えは、NOだった。
田淵量子 陸上自衛隊員
(この小説は、章のタイトルが登場人物名で繰り返されるものである。これだと、物語がどのように進むのか予想しにくい。それが目的かどうかは分からない。)
日本は混乱に陥った。
炭疽菌に日本の関与が疑われ、調査委員会が自衛隊を調べ始めたが、そのタイミングで陸上総隊の司令官である黒沢陸将の自殺の凶報が入った。
それから五時間後、量子の携帯電話が鳴る。『コード・レッド』と相手は言う。
量子は指示に従い、災害部隊から離れようとしたが、小谷に追い付かれた。
着いてこようとする小谷の首をしめて失神させ、合流地点に急いだ。
矢代相太 宇宙飛行士
相太は二日間の軟禁が解けて、ロシアから政府チャーター機で日本へ帰国した。
妻の聡美がいる病院に直行した。
妻は意外なほど元気だったが、医者は言った「あと十日ほどと考えています」
そして、最悪の事態はより深刻になっていく。アメリカが開いた緊急会見で、今回の多耐性炭疽菌は、人為的に組み替えられたゲノム構造を持つ、と発表したのである。
田淵量子 脱柵者
コード・レッドによる招集を受け、脱柵した自衛官は十八名。二台のトラックに分乗している。
量子はかつて、黒沢陸将に声を掛けられた。
「日本は自衛はするが、反撃できない国家。・・・だから我々は隠密性の高い抑止力を得る計画を進めている。君も志願しないか」
これから、量子らは、ある組織(仮名フレンズ)と合流する。
そして、炭疽菌治療薬の開発者である新谷七穂 衛生兵と出来立ての治療薬7本をフレンズに引き渡す手筈らしい。
そのことを、初めて聞かされた新谷はトラックからの逃走を企てたが、量子に取り押さえられてしまった。
新谷をフレンズに引き渡したあとの、量子らの命の保証はないと思われた。
麻木秀雄 財務大臣
炭疽菌の感染により、内閣総理大臣ほか三名の大臣が死亡し、日本は国家テロの疑いで窮地に立たされた。
ISSの事故から90分でISSは世界一周して炭疽菌をばら撒いた。関東圏もその感染ベルト下にあり、1375人が感染し、231人が死亡した。
副総理で財務大臣の麻木が指揮をとって閣僚らの会議が始まった。
ISSで死亡していた柿崎健太郎飛行士が日本のモジュールから炭疽菌が仕組まれたキューブサットの放出をしたのではないか、といった議論や飛行士の経歴の報告などがなされていたが、突然官邸職員が会議室に入室し、副総理に『特殊作戦群の現役隊員らが姿をくらました』という報告を行い、会議は一旦閉会となった。
田淵量子 脱柵者
自衛隊から脱柵した量子は、隙を見て新谷七穂と逃亡しようとするも、総社左門に見つかってしまう。
彼の仲間として、狙撃手の佐藤杏子、巨躯の藤堂諭吉、斥候の貞島春馬が隠れていた。
勝ち目はない。
貞島春馬は、量子の拘束を提案し、佐藤杏子が爪剥がしの刑を提案した。
結局、爪剥がしの刑が採用された。
第二章
麻木秀雄 財務大臣
二回目の政府会議が始まった。
自殺した黒沢陸将の経歴と彼が合成炭疽症計画の主犯かどうか。
警視庁公安部部長によれば、黒沢陸将と三友重工が癒着していたらしい。
会議の中で、防衛大臣と繋がっていたという須藤浩三政務官の名前が出て、捜索するよう指示が出た。
尾形篤志 脱柵者
二台のトラックは西へ向かい、自衛隊からの脱柵者らは途中で車から降りる。
尾形篤志は、午前三時の腕時計を見る。崖から海へ降りるらしい。
副隊長の尾形は、15mの崖を降りる作業をいとわない。なぜなら彼は炭疽菌に感染しており “命を捨ててもいい奴“ だったのだ。
全員が崖下に降りると、一隻の船が来て、彼らはそれに乗った。その漁船は長崎県内の島に到着した。
フレンズが待つのは、この中の島から1kmほど離れた要塞島。日が暮れて観光船もいなくなってから、泳いで上陸する。
まだフレンズを信用できない。取引と見せかけて、新谷七穂を奪うつもりかもしれない。
矢代相太 宇宙飛行士
矢代は、政府に呼ばれ、大会議室に赴いた。
そして、個人携帯を勝ってに調べられ、田淵量子との関係から監視を付けられることになった。
一方、中の島で休養した量子は、戦力にならない新谷七穂からくだらない質問を浴びていた。
逃走を持ち掛ける新谷七穂をねじ伏せて、量子らは休息。
翌朝、須藤浩三の前に整列し、フレンズの目的が新谷七穂の略奪なら、ピンポイントで衛星から合成炭疽菌を巻くという。
隊員らは絶望するが、須藤は得意げだ。
要塞島への上陸までに、鮫の攻撃を受けて二人の隊員を失った。
要塞島への上陸後、五メートルの崖を登り、病院の廃墟に須藤は潜伏する。
他の隊員は、少しずつ敵がいないかを捜索して陣地を広げていく。(これをクリアリングという)
量子は部隊を待機させ、ひとりで潜入する。
そして、部下を護りながら、新谷七穂を逃がし、治療薬を相太に送りたい、と考えている。
敵索(クリアリング)の結果、敵はいないと分かり、政務官は鎖で繋がれた新谷七穂と交尾をするために部屋を出ていこうとしたとき、量子が代役を願い出ると、政務官は量子のおしりを掴んで許可が下りた。
矢代相太 宇宙飛行士
小谷三曹は、相太の監視員となっていた。
量子隊長に気絶させられ恨んでいたのだ。
その自己紹介を聞いた相太は、量子がそうしなければ、小谷三曹も追われる身になっていたと分かっていたが、彼には言わなかった。
相太は自宅マンションへ戻り、着替えなどを見繕った。
妻の聡美から頼まれた手帳のありかが分からず、新しいのを買っていくことにした。
神崎重則 脱柵者
神崎は、総社左門と戦闘の稽古をするが、全くかなわない。動きが早すぎるし、両利きのようだ。
彼はおそらく特殊部隊最強だと、神崎は思った。
須藤指揮官は、協力者の素性を説明した。
彼らは紛争地で黒沢陸将に子供らを助けられて恩義を感じているということらしい。
だが、裏切らないという保証はないと、隊員らは考えた。
神崎はあることに思い至る。
合法的に日本から脱出できる組織(フレンズ)とは在日米軍ではないかと。。。
矢代相太 宇宙飛行士
相太は、総理、厚生労働大臣、財務大臣に料亭に呼び出されて宇宙飛行士仲間のエドガーが怪しいから探れとの密命を受ける。
引き替えに、合成炭疽菌の治療薬が見つかったらそれを妻の治療のために優先的に分けてほしいと頼み、厚生労働大臣に一喝されたが、総理は了承した。
田淵量子 脱柵者
関東は外出自粛なのに、北九州にあるこの要塞島には、観光客がやってくる。
新谷七穂は鎖につながれている。食事を取ろうとしない。
そこへ無線から連絡が入り、終了時間を過ぎたのに観光船が近づいてくるという。
甲板に人がいないことを確認し、観光船を模擬した敵船と判断し配置に付いた。
岸に横づけした観光船の甲板に出てきたのは、自衛隊員!
なんと量子らの要塞島潜伏は政府に看破されていたのである。内通者がいるのか。
待ち切れないデルタチームが発砲してしまう。
隊長の量子は、指揮官の須藤に指示を仰ぐが、返事がない。
隊員たちに発砲を禁止して、須藤隊長の居場所に向う。
だが、そこには須藤隊長の死体があった。
あまりのことに油断した量子は、後ろから撃たれた。
意識が遠のいていく。。。
第三章
榎並村重 陸上自衛隊員
自衛隊、内閣府、JAXA内に潜んでいた合成炭疽菌計画関係者の何人かは捕まっていたが、須藤らの情報は得られなかったが、潜伏先の情報は突然もたらされた。
政府側の自衛隊らも隊長の量子なら交渉してくるだろうと想定していたが、甲板の自衛隊員が狙撃されて、自衛隊は突入計画に切り替えた。
そして、衛星から要塞島に向けて、炭疽菌が発射されたとの通報が響く。
自衛隊は慌てることもなく用意していたガスマスクを装着して、予定どおり突入する。
加藤一朗太 陸上自衛隊員
ガスマスクを付けた加藤一朗太もヘリコプターから落下した。
途中で何人もが撃たれながら、なんとか着陸したときは疲労困憊。
彼は狙撃手の佐藤杏子を確保したが、惣社左門に襲われる。そして額を撃ち抜かれた。
矢代相太 炭疽菌災害調査委員
ようやく矢代相太が乗るヘリコプター、ブラックホークにも接近許可が出た。
相太のミッションは、量子の説得である。(だが、量子は撃たれて意識はない。)
脱柵者の神崎と遭遇し、銃撃戦になった。
ようやく、神崎を取り押さえたが、彼はマスクをしていなかった。
病院から緊急連絡が入る「聡美さんの容態が急変しました!すぐ戻ってください!」
だが、今の相太に選択肢はない。
佐藤杏子が指揮官と新谷七穂の居場所を吐いた。しばらくして、新谷七穂の確保の連絡。
また、図書室で人が倒れているとの連絡に、そこへ向かおうとする相太らに立ちはだかったのは最強の惣社左門である。
惣社左門 脱柵者
惣社左門と向き合ったのは、榎並教官である。
小谷三曹は、後ろで控える。
惣社と榎並教官の接近戦!
教官といえども天才の惣社にはかなわず天国へ旅立った。
小谷武史 炭疽菌災害調査員
目の前で、榎並教官が倒された。
惣社と向き合う小谷三曹と相太。絶体絶命!
そのとき、相太が隠し持っていた閃光弾を使用した。ふたりは目をつぶる。
となりの校舎へ飛び移り逃げるふたり。
追ってくる惣社が飛んだ時、小谷三曹が銃を放った。
体をはじかれた惣社は、寮棟と校舎の間に落下して息絶えた。
田淵量子 脱柵者
倒れていた田淵量子が発見された。
自衛隊は、治療薬がどこにあるのか、と、衛星兵器はお前が起動したのか、しか聞かず、マスクを量子に付けて助けようともしない。
矢代相太 炭疽菌災害調査委員
相太と小谷三曹は、榎並とほか二人そして惣社の四人の死を無線で伝えた。
相太は、量子が息を引き取る間際に、事の真相を聞き出したが、他の者を排除させたので、真相は相太しか知らない。
神崎重則 脱柵者
神崎らは連行され、指揮官や隊長など数名の死者を見せられてから尋問が行われた。
小谷武史 炭疽菌災害調査委員
黒沢一派の9人に、指揮官や隊長の死体を見せた。
そのときの様子を録画し、動揺を演じている者を見つけようとしたが、該当者はいなかった。
彼らは、ほんとうに二人の死を知らなかったらしい。ならば九人とも犯人ではないと推測できる。
何度も聴取の録音を聞きながら矛盾点を探したが、九人の証言に矛盾はなかった。
では、なぜ指揮官と隊長が撃たれているのか。
やがて、黒沢一派に食料を届けていた二人が疑われ始め、暗視カメラ映像に映っていた肉付きのいい男に注目した。
矢代は急に校庭に走り出した。鮫に襲われた尾形篤志の死体を確かめようとしたとき、神崎准陸尉が矢代を呼び止め、「フレンズの正体は、在日米軍だ」と言う。
矢代は、量子から聞いた尾形の遺体を発見し、「犯人が分かったかも・・・」と無線で小谷三曹に伝えた。
麻木秀雄 財務大臣
今回の要塞島制圧作戦に先立ち、日米会議が行われていた。在日米軍の兵力を貸す代わりに、確保した新谷七穂の身柄はアメリカに引き渡し、両国共同で治療薬を生産することが決まった。
麻木財務大臣は、犯人を突き止めたという矢代と黒沢一派に食料を届けていた二人との会話の録画映像を見ていたが、驚くべきことが分かった。
要塞島に渡る途中、鮫に襲われて死んだと思われていた貞島春馬が食料を届けていた一人に扮装していた。
麻木大臣は、映像確認の途中で、米国国家安全保障局との会議に向った。
麻木大臣は、潜伏工作員(モグラ)は、黒沢一派ではなく、こっち側に居ると考えていた。
貞島春馬 脱柵者
貞島春馬は自衛隊に入隊し、訓練で長崎の駐屯地を訪れたとき、売店で働いていたタリン・ヤヅールに一目惚れし、交際に発展した。
捜査員に囲まれた貞島春馬は、須藤指揮官から治療薬を奪うため、彼を殺したと自供した。
そして、7個の治療薬は隠したとも。
相太が、貞島に迫って治療薬の隠し場所を詰問しているときに、その一報はもたらされた。
ついに、治療薬が発見された、と。
矢代相太 炭疽菌災害調査委員
そのとき、貞島春馬の妻のタリンが叫んだ。
自分の7人の子どもが感染している。だから治療薬は1つも渡せない、と。
後ろ髪を引かれつつ、相太は治療薬が発見された場所へ走った。
ヘリコプターに乗り込み、妻が待つ病院へと急ぐ途中、病院から連絡。
相太の声を聞いた聡美は、相太が何か隠していることを感じ取った。
引かない妻に、相太はタリンの七人の子どものことを話した。
妻は治療薬の権利を放棄するという。
行動の早い妻は、同じ病院に入院していた大臣らの妻にメッセージを送り、治療薬の放棄へと向かわせた。
相太が病院へ着いてから、16時間後に聡美は天国へ旅立った。息子の慶太を残して。。。
新谷七穂 生物剤研究者
新谷七穂の正体は、兵器開発コンサルタント、中国出身でシィスィ(七穂)と呼ばれている。
ここは、米国国防総省の深部。ここにいる研究者と共同で炭疽菌を開発した。
宇宙飛行士のエドガーや惣社左門も仲間だ。ときには潜伏工作員(モグラ)となる。
核が表の力なら、炭疽菌は裏の力である。
矢代相太 元宇宙飛行士
息子の慶太をあやす相太。
プロポーズをした海で散った花束と同じように、聡美の遺骨が海に放たれる風景は、悲しすぎる。。。
書評、感想
日本が関わる宇宙のプロジェクト、その衛星が故障して日本担当のモジュールが壊れて殺人兵器の細菌がばら撒かれるというストーリーから始まる。
コロナで中国が受けたような非難を日本が受けるということになる。
この、「相手の立場になったら」どうする?という課題を最後まで突きつけられる物語である。
感染したら、100%死ぬという細菌が、自分が住む地域に空からピンポイントで降り注ぐのである。
もし、治療薬があると分かれば、人は殺し合いをしてでもそれを手に入れようとするだろう。
宇宙から地球に、衛星の軌道上にある国や地域に炭疽菌がばら撒かれるという事態に世界は混乱し、炭疽菌をばら撒いた日本政府と混乱を平定して世界から称賛を浴びたい米国政府が水面下で取り決めを行う。
自衛隊の上官に成りすまして商売のネタを探っている「米国政府から派遣された潜伏工作員」らが先導して、優秀な炭疽菌研究者を日本から米国へ連れ出そうとする。(*1)
政府の水面下の取引を知らない自衛隊員は、上官である潜伏工作員の指示に絶対的に従うのである。そのため、いつの間にか脱柵者(駐屯地から脱走した者)あるいはテロリスト(炭疽菌を世界にばら撒いた)として扱われてしまう。
ところが、想定外の事態が絡んで、誰が味方で誰が敵なのかが判然としない。
自衛隊を脱出した精鋭部隊の者達は、長崎県の要塞島へ一旦潜伏する作戦をとる。
それを、表向きは、日本の自衛隊と在日米軍が共同で制圧に向うのだ。
その意図は先に書いたとおりである。(*1)
世の中、政府や謎の組織に操られてばかりである。
まじめに任務を遂行しようとする自衛隊だからこそ、政府も作戦を立てやすい。
世間には、炭疽菌の治療薬が開発済であることは秘匿されている。
炭疽菌の治療薬とその研究者を伴って要塞島に籠城した者達を一刻も早く、制圧しなければならない。
外から見ると、要塞島という戦場で、自衛隊を脱走した犯罪者と警察・自衛隊・在日米軍の部隊の戦いのようにも見えるが、真の対決構図は違う、という点もうまく描き出されている。
最後は、最初にも書いたように、「相手の立場になったら」どうする?という課題が主人公に付きつけられる。
この究極の命の選択をあなたは(も)できないだろう。
穂波了さんのプロフィール
1980年生まれ。千葉県出身。別名義で、2006年に第1回ポプラ社小説大賞を受賞している。2019年、『月よりの代弁者』(出版に際して『月の落とし子』に改題)で第9回アガサ・クリスティー賞を受賞しデビュー。(WEB上の紹介文より)
〆