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海に向かう足あと 朽木祥 なぜ足あとは海に向かっているのか

しばらく釣りに行けていない私は、タイトルに海のつくこの本を選んだ。

プロローグを読んで、セーリングの小説だと分かった。

居心地のよさそうな小さな島のホテルの描写に、ゆっくりと読書が楽しめそうだった。

「小さなホテルは、森を背にして、三日月型の湾を見晴らして建っている。中略

8月5日だった。中略 あの夏のことである。」

月天号(がってんごう)はヨットである。これに乗っていたが、老朽化で、風の竪琴という意味のエオリアン・ハープ号に乗り替えた。

ヨットは、三浦半島の風色湾が母校である。

月天号はレーサーと呼ばれる三十フィートの競技艇で、レースには六人のクルーが必要だという。1人くらいは補欠がほしいが。。。

エオリアン・ハープ号も同じく三十フィートの競技艇で、翌年のゴールデンウイークに、小笠原諸島の手前の三日月島をスタートして江ノ島でフィニッシュするレースへ参加することになった。

さて、いつものように登場人物を整理しておきたい。

こうしないと、物語が頭に入ってこないのである。

この小説も少しずつ登場人物の情報が出されていくので、まとめるのが大変だった。

でも、実際の人間関係も時間をかけて素性が明らかになっていくものではあるので、納得しようか。。。

クルーNo.1

村雲佑(主人公) むらくも・たすく
三十代半ば 照明器具メーカー勤務
飼い犬はリク
彼女は輝喜(テルキ)といい、32歳くらい
飼い犬はソラ 輝喜の弟は生きていたら
洋平くらい、両親も他界

クルーNo.2

相原さん(大先輩)オールドソルトのひとり
宝島の船長のような顎鬚 品川在住
ネコと二人暮らし
娘の俊子は坂本動物病院の先生、夫も。

クルーNo.3

諸橋亮 もろはしりょう 結婚4年目
村雲のヨット部同期 政府の研究機関に
勤務 子はいない 免許なし 横浜在住
妻の利香はドイツ車に乗る(夫の5歳下)

クルーNo.4

三好広之 みよしひろゆき
村雲のヨット部同期 市役所に転職
妻の由布子は図書館司書、娘は久美ちゃん

クルーNo.5

石坂研人 村雲の大学ヨット部の10年後輩
ジュニアヨットクラブ出身 ITベンチャー
妹の泉は5歳下

クルーNo.6

酒井洋平 石坂のジュニアヨットクラブ仲間
文具メーカーを辞めてヨットニート化
バイト生活 年上彼女の菜摘子(32くらい)
は、小学校の先生で小学二年生のコウタが
いる コウタのおばあさんは広島被爆者

月待諸島の三日月島(架空?)のホテルの人々
神谷支配人、佐伯シェフ、ハーバースタッフ
の今井智規

1章の終わりには、ブレンダン・コーからのメール

9.11テロの十回目の式典の「追悼の光」について

なんだかテロや原発事故のにおいがしてきた。

2章のおわり:メイヤー副支配人から神谷宗吉へのメール

ロンドンでのテロについて

村雲の彼女(輝喜)の思いから

「誰かのために生きて満たされる人生もあるのではないか、と輝喜は考えることがあった。中略。ただ、両親に次いで弟を失って思い知ったのは、命のある誰かを生きがいにしてはいけないということだった。」

これは、深~いことで、まだ私には消化できていない。

そして、輝喜はこうも思う。

「そして、気がついたのだ。これまで旅立てなかったのは、心に刻んだ情景を一緒に見たい人がいなかったからだと。」

これは、前段の深~い思いとは、矛盾しないのだろう。

もうひとつ、純粋な若いころの感覚が甦るような文章があった。人によっては何も感じないかも知れない。

「左舷デッキには村雲が寝ころんでいたが、無言だった。物思いにふけっていたのである。 どんな人にも……何も持っていない人にも、等しく無条件で与えられるものがある。それは胸に染みるような空の青さだったり、落ちていく日の雄大な景色だったりする。生きててよかったなあ、と思わせる情景だ。」

3章のおわり:村雲から輝喜へのメール

まだ、この島が楽園だと思っている村雲は、光のデザイナーとして、犠牲者を慎む祈りの光についてメールした。協会の光や灯籠の光も、失われた人々を悼(いた)み懐かしむ光なのです。

最終章 楽園

私は、そのレースが華やかにスタートし、彼らのエオリアン・ハープ号のクルーたちが優勝してハッピーエンドになるものだと思い込んで優雅な気分に浸っていた。

ここで、W.シンボルスカのユートピアのなかの詩が掲載されている。

「こんなに魅力があるのに、島には誰も住んでいない

砂浜に散らばるかすかな足跡は

ひとつ残らず海に向かっている

まるで、ここから立ち去って

二度と帰らぬために

深みのなかに沈むかのよう

底知れぬ生の深みのなかに沈むかのよう」

足跡はひとつ残らず海に向かっている は、この小説もタイトルではないか。

。。。

しかし、 。。。あり得ない展開!

そして、輝喜とソラは、「海へむかった」のである。

絶望しそうになりながら、4人のクルーたちは、江ノ島を目指す。

どうするかは、最後はみな自分で決めなければならない。

75年前の原爆投下直後の広島もこんなだったのだろうか。

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この記事を書いた人

ソフトウェア会社サラリーマン。書店や図書館で見つけた本の読書録を残したいと考えブログに書いています。ミステリー、時代小説、資格維持のための教養本などジャンルを問わずに読んでいます。読書録に加えてちょっとしたアイデアなども書けたらと思います。

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